住宅医ネットワーク代表の三澤と申します。よろしくお願いします。
 私たちは、「性能向上レベルの明確化〜木造建築病理学既存ドックシステム3」という提案をさせていただきました。
 元々は2006年から、英国で行われている「建築病理学」を日本流に読みかえて、「木造建築病理学」という講座を岐阜県立森林文化アカデミーで開講しました。その後、先導事業が始まった2008年から住宅医ネットワークという組織を立ち上げて今に至っています。
 現在、住宅医ネットワークの事務局は岐阜、東京、大阪とあり、住宅医スクールを東京と名古屋で運営しています。また、岐阜のアカデミーに建築病理学の講座があります。このように教育の場が3校あるわけですが、来年度からは名古屋から大阪に移って、全国に広げていこうという形になってきています。たとえば山陰や四国の方が名古屋まで来るのはちょっとつらいけれど、関西だったら何とかなるという声を聞きまして、そのような体制になってきました。

全面改修から始め、部分改修にも展開
 はじめて先導事業に採択された平成20年度は、特に詳細調査を重視して、そして診断、それに基づく改修設計や施工を行うために、住宅医を養成する人材教育に主眼を置きました。また、質の高い全面的改修の実施をうたい、新築住宅並みの性能に上げるということで、第三者機関の性能評価も取得するという提案をしました。
 その結果、採択されて16件の実施が認められたのですが、実際にできたのは4件ということで、ちょっとハードルが高過ぎ、取り組んでいただける方が少なかったという反省がありました。
平成22年度には、その反省を踏まえて全面改修だけではなく部分改修も行おうということで、改修ニーズの間口を広げてみたわけです。600〜2,000万円までの部分改修についても、改修前の詳細調査のときの実際の性能と改修後の性能がきちんとわかるようにして、少しでも良くなればいいのだというような提案をしました。
 その結果、15件が認められ、15件の枠が全部埋まるということで、非常に成功しました。
平成20年度が4物件、22年度が15物件ということですが、それを分析しました。

 
  左の円グラフですけれども、建設年で言いますと、赤の部分、戦後の1945年から1980年の新耐震以前の建物が11物件で、一番多くを占めています。次に多くを占めているのが戦前よりさらに古い住宅で、基礎は玉石・延石基礎や無筋の基礎。こういう築年がほとんどだということがわかり、ここから補強の技術もかなり蓄積されてきたように思います。
 中央の円グラフは依頼主の年齢です。上から左回りに見ていただくと半分以上が60歳以上ということで、熟年及び高齢者の依頼主が多いことがわかります。70歳以上の依頼主も3物件ありました。
右の円グラフは、赤いところが1,000万〜2,000万円未満ということで、ここが一番多くを占めております。ただ、2,000万〜3,000万、3,000万円以上というものもかなり多くを占めていて、1,000万円以上がほとんどということになりました。

改修による性能のアップ度をみえる化
 そこで、平成23年度の応募に際しては、ライフステージの転機に合わせて比較的高額なリフォームを行って性能も向上させるというニーズに着目しました。それまでに取り組んだ経験で、コストに合わせてどれだけ性能がアップするかということもわかってきたので、新築住宅並みとは言わないまでも、それに近い性能の物差しを6項目に絞り、提案しました。

 
 具体的には、詳細調査における診断結果をレーダーチャートに示し、改修後の変化を住まい手にしっかりと示すということを提案しております。

診断結果は住まい手にきちんと説明
 私たちは、特に調査・診断に重きを置いております。これは木造建築病理学を踏まえた調査・診断です。まず2時間ほどの事前調査に行きまして、そのあと詳細調査を20人程度のチームで1日かけて行います。そして1カ月ぐらいかけて住まいの診断レポートをつくります。この診断レポートは、長期優良住宅の認定基準である5項目プラス火災時の安定を入れた6項目において診断を行うという項目立てになっています。
 この住まいの診断レポートは、右の写真のように結構分厚くて、住まい手さんに説明するのに1時間半ぐらいかかりますが、右下の写真のように、この方は70代の方ですけれども、1時間半、じっくりしっかり集中して聞いていただきました。自分の家のことは自分の体のように心配していますし、明快に、まじめに、正確にお話しするとしっかり聞いていただけるということがよくわかりました。

 

 詳細調査をしますと、例えば腐朽があったり、蟻害があったり、無筋の基礎にクラックがしっかり出たりということがわかります。

 

 それらをどのように直したかということを、右にあるような工事報告書を住まい手さんに毎週提出するということも提案しています。本来でしたら住まい手さんに現場に来て見ていただくのがいいのですが、なかなか定例会議のように毎週来ていただくわけにもいかないので、報告書をつくって、工事が終わると隠れてしまうところをきちんと報告するという提案です。

築150年の住宅も大規模改修で再生
 最後に事例を3件紹介します。
 1件目は、60代の夫婦とお子さん2人という物件で、40坪、築34年の住宅です。基礎は無筋のコンクリートで、土壁、土葺き瓦です。断熱材は入っていません。特に蟻害被害が甚大で、床がぼろぼろでふわふわしている状態でした。
 また、日本の古い住宅にありがちなのですが、2階の外壁ラインが1階に載っておらず、構造計画的にかなり問題でした。

 

 それをこのように改修しております。先ほどの2階が載っているラインに耐力壁をしっかり設けているということ。内部にも耐力壁を設けて、2階の床は合板でかためております。工事費は1,915万円。この住まい手は定年を期に改修を決意されたということで、建て替えるより、ある程度のお金をかけてリフォームするという決断です。

 

 次は、無筋コンクリートで土壁、土葺き瓦。断熱材は入っていません。築80年の建物です。住まい手は40代の女性と70代のお母さん。これは、住まい手の娘さんが鍼灸の診療院を行うということで改修の決意をされました。収入を得ることのできる住宅にするということで、今後の高齢者を抱えた生活を支えていくという動機です。

 

 最後は築150年の建物です。延べ面積が81坪ですが、これは少し減築しております。60代のご夫婦に30代のお子さんで、代替わりにあたって資産をどうしていくかということから改修に踏み切りました。費用は4,900万なので高額と思われるかもしれませんが、これだけのお宅で、基礎を全部造り替えていて、それでも新築するより安く、大体新築の半分から7割でできるという実績を説明しています。それによって、今まで住んできた家を残そうという動機になっていると考えております。

 以上です。ありがとうございました。(拍手)

 

※当日の配布資料はこちらでダウンロードできます。     

 

▲このページの最初に戻る            ▲プログラムのページに戻る