皆様、こんにちは。一般社団法人良質リフォームの会の理事を務めている小林です。
 私どもは、3年間の間に4回長期優良住宅先導事業に採択されました。今日は採択された提案の概要と、実際に行ってきた内容について説明したいと思います。
 良質リフォームの会は、首都圏のリフォーム専門会社が集まって2001年に結成された非常にコンパクトな団体です。1990年代後半のリフォームをめぐる社会的なトラブルが多発した時期に、リフォーム専門会社としてどのような姿勢でリフォームに取り組むかをテーマに掲げ、リフォーム倫理憲章を遵守しようという同志の会社が集まっています。
 会員は大きく三つに分かれていて、基本は一種会員というリフォーム専門会社12社です。ここには大手リフォーム会社から社員数10名足らずの小さなリフォーム会社まで、リフォームを専業でやっている会社が横断的に集まっています。そのほか二種会員としてエクステリア関係や屋根・外壁の塗装工事の専門工事会社、三種会員として、建材メーカー、住宅設備機器メーカー、表層仕上げ材のメーカーにもご協力いただいて設立した団体です。
 良質リフォームの会では、平成21年度第1回募集に「ホームインスペクション導入による、既存住宅リノベーション工事から流通までの管理システムの構築」という非常に長い名前ですが、長期優良住宅先導事業に取り組むに当たっての受け皿となる事務局の足腰を強くするとともに、将来的に住宅履歴情報の蓄積に取り組むための準備をしようということで、維持管理に関する提案を行い採択されました。
 同年の第2回募集には、マンションのスケルトンリフォームを、全体の一貫性を持たせて実施しようということで、「リノマンション」というシステムを提案し、具体的な既存住宅の改修工事として採択されました。
 翌22年度の第2回募集には、スケルトンリフォームとなるとどうしても工事範囲が広くなりますし、費用も高額になるということで、やりたいけれどもそこまで予算がかけられないということがあります。そうした場合に優先順位をつけて、最低必要限度、特にマンションの場合には水回りが中心になりますが、そういった重要な部分をきちんと再生しようということで、部分リフォームというものを加えて申請し、採択されました。
 23年度は、それまでの実績をもとに先導事業の考え方を戸建てに適用しようということで、「HQ良質の家」というプロジェクトを立ち上げました。一戸建て住宅は、断熱に加えて耐震補強が重要になるので、これを提案して採択されました。こちらは今年3月末までに契約・着工となるので、今日ご紹介するのは受け皿づくりからマンションリフォームまでの内容になります。

仲介・診断・リフォーム工事の三者が連携
 さて、中古住宅探しとそのリフォームは、どうしても仲介事業者が入口になり、購入が決まってからリフォーム事業者に相談に来るというのが一般的でした。そうなると、希望する間取りに変更するなど大規模なリフォームが施工可能な物件かどうかというのは、買った後で検討に入るということになります。本来は、築年数によって施工できる範囲も変わるので、購入物件探しのところでリフォーム事業者が内覧に同行するとか、工事費用の見当をつけるとか、お手伝することが望ましいわけです。その意味で仲介事業者とリフォーム会社の連携が重要になります。
 また、工事期間中の安心・安全をどうやって担保するかといったことも重要です。当然社内検査を行うのですが、あわせて第三者による施工検査や購入前の物件の診断についても、インスペクションを行う第三者の組織と連携して実施しています、
 このように三者連携により生活者にサービスを提供しようということが、リノマンションの特徴になるかと思います。

 首都圏では、中古マンションのリフォームについて二つの大きな流れがあります。このうち最近非常に多いのが、都心部で中古マンションを自ら購入し、入居前に大規模なリフォームをしてから入居しようという流れです。
 もう一つは、30年前に新築を買って住み続けてきたマンションを、子供が独立したので、セカンドステージといいますか、大がかりなリフォームをして、夫婦二人で残り20年、30年をいかに楽しく生活するかを考えた流れがあります。
 この二つの流れに、リノマンションのシステムで対応しようというわけです。

 ちょっと流れが複雑ですが、基本的には購入前に費用の概算見積もりを提出し、物件をリフォーム工事とセットで購入していただいた後、工事期間中の検査は4回行います。そして竣工後は、報告書類は住宅履歴情報として第三者機関がデータベースに保管するという一連のシステムです。

スケルトンリフォームに5つの条件を設定
 リノマンションの考え方は、基本的には天井の二重化と、重要なインフラ・配管設備類はすべて新しいものに更新しましょうということです。

 リノマンションでは、施工に関して5つの条件を付けています。
 まずは構造躯体の耐久性ということで、劣化対策があります。基本的にはスケルトンリフォームなので、インフィルを全て撤去した時点で検査が入り、構造躯体で傷んでいるところ、劣化しているところをチェックして補修工事を行います。
 実際にインフィルを撤去してみると、例えばスラブの配管の駄目穴にそのままウェスが詰め込まれていたり、型枠の変形ではつり跡がそのまま露出していたり、配筋の施工不良でかぶり厚が少なく露出鉄筋が発見されたりと、経年劣化よりも新築時の施工不良が目立つケースがほとんどでした。
 一方で良かったのは、スケルトンにすると外周壁からの漏水や最上階の居室で屋上からの漏水が発見できるということでした。例えば、漏水事故は起きていないものの、ごく少量の雨水の漏水が原因で天井裏にカビが発生しているということが解体時に発覚するので、それらへの対応がリフォーム工事をつくり込む前にできることがとても効果的でした。
 次が内装・設備の維持管理の容易性ということです。今回対象となった物件はほとんどが築30年を超えるマンションで、当時の給排水管は鉄管でしたから当然劣化していました。この頃は大規模修繕で共用部の縦配管の更新工事が行われるようになって来ましたが、占有部分の配管は所有者の対応になるので、既存配管を全部撤去して、 新しくヘッダー方式の樹脂配管に替えることになります。

 同じく設備系として特徴的なものは分電盤です。30年前のマンションの分電盤というのは回路数が非常に少なく、部屋ごとに回路分けされていましたが、今はゾーン別に電力計算をして、回路数も増やす対応をしています。また、当時はなかった情報盤を新設して、各居室に配線しています。
 3番目に、変化に対応できる良質な居住空間ということです。例えば、30年前は部屋数が必要だったのが、子供が独立して使わない部屋が北側の共用廊下側にあって、そこが納戸状態になっています。そのため、できるだけ広い居住空間でゆったり暮らしたいと部屋数を減らすプランが多いのです。あるいは30代前半のご夫婦が、将来子供が大きくなったらそこに部屋をつくりたいけれども、今の段階では広い開放的な居室にしたいということで、将来の間仕切り位置を想定して下地補強を入れておくという天井床下地組先行施工方法を採用いたしました。

 大事なことは、私ども業界人はスケルトンリフォームという言葉にわりと馴染んでいますが、生活者の方はそうではありません。既存の間仕切りを撤去してスケルトンにした後で理想的なレイアウトが実現できることを初めて知って、ここまでできるのかと皆さん驚かれています。逆に言うと、マンションの専有部については白紙の段階からレイアウトができるということが、費用を少し掛けても思い切ったリフォームをしたいという方の背中を押すことにつながったと思います。
 4番目が断熱性能です。30年前の物件はほとんど無断熱のマンションですが、最近の新築では当然外周壁に現場発泡のウレタン断熱工事が行われています。良質リフォームの会では、やはり国土交通省が実施している省CO2先導事業にも採択されていて、温熱環境を向上させるために、外周壁の断熱工事をウレタン吹付け工法または断熱パネルの密着工法を標準仕様として施工いたします。
 最後のバリアフリー性については、将来設置予定の手すりの位置などを先行して下地の補強を行っておきます。床はすべて乾式二重床で、構造上排水勾配が取れないところは例外としましたが、バリアフリーで乾式二重床、置き床のLL(軽量衝撃音)45以上の遮音性能を持たせるということを条件にしました。

リフォームに伴うソフト対策も充実
 ここからはソフトの部分の3つの条件になりますが、第三者の工事検査を4回行うということが高く評価されました。外部のインスペクション会社と連携して、お客様が立ち会う形で、解体時の劣化診断、配管工事後の配管更新検査、下地組が終わった段階での中間検査、竣工後の完了検査の4回第三者検査を受けています。

 また、設計図書や検査報告書は、住宅履歴情報のデータベースとして良質リフォームの会のサーバーに保存しています。工事現場から送られてくる毎日の施工状況、工程写真等もサーバーに保存しています。
 現場見学会やセミナーもたくさん実施していて、特徴的なのは施工現場で現物を見るという見学会で、これは大変評価していただきました。

 リノマンションの実績は、これまで19件あります。ほとんどが築30年を超えるマンションで、平均的に1,000万円前後の工事費の中でこの事業に取り組んできました。
 まだまだ課題はたくさんありますが、おかげさまでリノマンションシステムは昨年グッドデザイン賞を受賞しましたので、これからは会のブランド化を進め、これまでの実績を生かして普及に努めたいと思っております。
 どうもありがとうございました。(拍手)


 ※当日の配布資料はこちらでダウンロードできます。

 

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