皆さん、こんにちは。北海道建築技術協会の長谷川です。
 北海道建築技術協会では、「北海道北方型外断熱改修システムプロジェクト」と称して平成22年度に初めて応募し、22年度と23年度の2回採択され、現在事業を進めております。対象は共同住宅、具体的には分譲マンションを1棟丸ごと外断熱改修するという提案です。
 提案にあたっては、関係機関、団体等の方にお集まりいただき、数回の打ち合わせを行いました。北海道建築技術協会は、提案の代表者になっております。

耐久性と資産価値を向上させる改修を総合的に実施
 私たちの提案は、中高層分譲マンションについて、改修しながら長期的に継続して居住していくための基本条件となる長期耐久性の確保と新たな住宅価値の獲得を目指したものです。
 具体的には、外断熱改修ということで、構造躯体の屋外側に新しく断熱材と外装材、それから窓も外側に1枚付加し、それによって省エネ性の向上や躯体の熱容量を生かした室内環境の改善、躯体自体の劣化防止を図ることにより、長期的な耐久性が確保でき、資産価値も向上するというものです。
 同時に、大規模修繕工事のサイクルを延ばせることで、マンション管理組合の負担の軽減や、改修後の20年、30年を考えたトータルな改修費用の軽減が実現できます。また、適切な長期修繕計画の策定にも寄与できるということもあります。
 もう少し詳しくお話ししますと、省エネルギー性については、壁や屋根の外断熱改修を行って熱性能を向上しているというのが一つ。それに加えて窓には外窓を付加して諸性能を向上するとともに、既存窓との間にロールカーテン等が設置できるようにして、日射防止による防暑対策を可能にしています。バリアフリー性については、共用部の段差解消や手すりの設置をあわせて実施しています。
 また、維持保全に関しては、改修前の現況調査記録、改修の工事記録、維持保全計画を作成して、それらの記録を保管しています。
 さらに先導的な取り組みとしては、こういった既存住宅の改修を支える維持管理システムの構築、行政との連携による普及啓発事業に加えて、冬の暖房エネルギー消費量と温熱環境改善の調査、今後の改修に向けての居住者の意識調査にも取り組んでいます。

改修に当たってはディテールにも工夫
 ここからは、札幌市内で外断熱改修を実施したマンションの例をご紹介します。
 このマンションは、鉄骨鉄筋コンクリート造の14階建てで戸数は61戸。1階には住戸はなく、2階以上が住戸として使われています。
 改修前の状況は、ひび割れや塗装面の膨れ、窓周りは普通の二重窓なのですが、その部分での結露や窓周囲のひび割れ、一部カビの発生などもありました。
 このマンションの管理組合が、外断熱工法による改修を採用した理由は三つあります。一つは、建物全体を断熱材で覆うことで躯体が保護されるということ。二つ目には断熱性が向上して居住環境が改善されるだろうということ。三つ目が、長期的に見れば修繕工事費自体が安くなるだろうということです。こういったことが理解されたのが、改修に踏み切った理由です。
 改修工事の主な内容としては、まず、外壁だけでなく屋根スラブも外断熱工法で改修し、50mm厚の断熱材を外側に付加しています。窓は、既存窓の外側にもう一層加えることにより、熱貫流率が次世代省エネ基準に合致する新築並みの性能に改善されます。これらにより、暖房エネルギー30%以上の削減を見込みました。
 また、外装材は、耐久性のあるものとして高耐久外装塗材、場所によってはガルバリウム鋼板外装を取りつけております。あわせてパラペットの笠木改修もやっています。
 こちらがパラペット部分の詳細図ですが、外壁の外側に貼った50mmの断熱材の上に、斜めに笠木を取り付けています。

 左側の写真で白く見えるのが断熱材ですが、上端を斜めにカットし、右側の写真のようにガルバリウム鋼板で覆っています。斜めにしている部分は、着雪した雪が後から落下して被害が出ないように、その角度にも気をつけて設計しています。

 これはバルコニー部分の詳細図ですが、バルコニーの防水は劣化が早いので、これを改修しやすいように、外壁の断熱材を床面まで下ろすのではなく、途中で縁切りをして下側は脱着できる備えをしています。

 窓はもともと二重窓ですが、そこに新しく外窓を付加しています。外壁に断熱材50mmを付加していますので、その厚みの中で納めるという処理をしています。
 これが施工中の写真です。左が窓枠を取りつけているところ、右がその外周りにブチルテープなどでもう一度防水をしているところです。

 この写真は、左側が乾式でガルバリウム鋼板をつける部分の断熱材施工です。右は湿式。これにネットをつけて、高耐久塗材で外装をします。外壁として凹凸のあるところ、特にバルコニー面などはいろいろな理由から湿式工法を採用しています。

外断熱改修の効果に居住者も満足
 改修前後の室温を測定してみた結果をグラフにしてみました。青線が改修前の、赤線が改修後のそれぞれ各室の天井付近と床付近の温度を示したもので、真ん中の数字が平均温度です。改修後の測定日は非常に寒い日でして、外気温は平均でも−9℃でした。それに対して改修前の測定日は外気温が−2.6℃で同じ条件ではないのですが、ご覧になって分かるように、改修した後は、外気温が低いにもかかわらず室内平均温度は上昇していて、特に線の下側が示す床付近の温度が上がってきているということが読み取れると思います。

 また、改修後に居住者にアンケートをしてみたところ、住戸内の温度は変わったたかという問に対して、「かなり暖かくなった」と「少し暖かくなった」を合わせて92%になりました。また、住戸内だけでなく共用廊下の温度も改善されたという回答が大半でした。改修工事による性能向上の満足度を全般的に聞いてみても、「かなり満足」と「ある程度満足」の合計が8割強になっています。
 窓を付け加えたことによってどうだったかという問に対しては、「窓の外から入ってくる音が静かになった」とか、「窓付近の寒さがなくなった」、「すきま風がなくなった」、「窓周りの結露がなくなった」という回答が多く寄せられました。
 この結果からもわかるように、改修後の入居者の評判は非常に良好で、喜んでもらっているという状況です。
 急ぎ足になりましたが、これで報告を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)

※当日の配布資料はこちらでダウンロードできます。

 

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