【巽】今日は、先ほど事例発表をしていただいた4名の方と国土交通省の真鍋さんとで、二つのテーマについてディスカッションを進めたいと思います。
 一つ目は、長期優良住宅先導事業に取り組んでみて、どういう点が良かったのか、この事業のメリットは何だったのか、あるいは逆に取り組みにくかったこと、もっとこうだったら良かったというようなことについてお話をいただきたいと思います。
 二つ目は、それぞれの方が長期優良住宅先導事業の経験を踏まえて、今後どのような取り組みをされるのか、将来の計画あるいは展望についてお話をいただきたいと思います。
 それではまず一つ目のテーマについて、工務店サポートセンターの鈴木さんからお願いします。

工務店のネットワークを生かして技術力がアップ
【鈴木】私たちの団体には現在2,000社近くの工務店が参加していますが、この先導事業への取り組みを始めたときに1,500〜1,600社ぐらいに一気に増えました。その中で皆さんがやれる先導的な提案しなければいけなかったという反面、採択されなければ仕方がありません。工務店の中には、もう先導的なことをやっている人たちも大勢いる一方、これから取り組もうという人たちもいるわけです。その皆さんに公平にやっていただけるようにするというところに非常に苦労しました。
 良かった点としては、既にレベルの高い取り組みをしている工務店にとっては、元々やっていることに近い提案を先導事業として国が採択してくれたことが追い風になって、お客さんの理解が得られたということがあります。加えて200万円の補助金がつくというのが非常に大きくて、お客様としてもそれならやろうかという気持ちになってくれたということが大きなメリットでした。
 これから取り組もうという工務店には、一生懸命努力をして先導事業に取り組んでいただきました。一度先導事業に取り組むと、おそらく長期優良住宅の認定基準を満たすレベルの家を建てることが難しかった工務店も、それを超えるものを先にやっているので、長期優良住宅の認定を受けるときに非常にすんなり入れたと聞いています。

【巽】いろいろなレベルの工務店がいる中で、先導事業への応募に際して公平にやるのが難しかったということですが、どういうふうに対応されたのですか。

【鈴木】まず説明会をかなり開きました。ただ、それだけでは一歩を踏み出せない人もいるので、様々な機会を生かして交流していただいて、その中から情報をつかみ取ってもらいました。JBN(Japan Builders Network)の会合やセミナーに来ていただいた人たちは、先に取り組んでいる人たちの生の声を聞けたというのが大きかったと思います。とにかくネットワークの交流というのが一番大きいと私は思っています。

【巽】参加することによって技術が向上したということは顕著にみられますか。

【鈴木】自分たちにはできないと思っていた人たちも、1棟やってみることですごく変わりました。技術力も飛躍的に上がったと思います。

【巽】ありがとうございました。次に住宅医ネットワークの三澤さんにお願いします。

住まいを「治す」技術者が実践を通じて成長
【三澤】最もプラスになったことは、建築士の職能が社会的に認められる可能性を実感したということです。私自身も建築士ですが、姉歯事件もありましたし、住宅医ネットワークの活動はそういうことを意識したものでもあったと思います。
 そもそも2006年から始まった木造建築病理学の講座は、岐阜県の小さな学校の受講者も10人ぐらいの講座でした。それが今や東京、名古屋と広がって、同時に学んでいる人たちは100人以上になりました。それも学生ではなくて、現場の技術者です。このようにすぐ実務に反映できる即戦力的な教育ができているところが強みになっています。
 この先導事業に採択され、と言っても平成20年度は16棟で申請して実際にできたのは4棟と数は少なかったわけですが、平成22年度は申請した15棟すべてを実施できました。とにかく受講生は採択されたことを聞くと「よっしゃー」みたいな気分になるんです。そういう意味で皆さんの勉強する意欲が増してきたと私は感じています。
 ただ、今年入ったスクール生がすぐできるかというと、技術力の点でまだ難しいところがあります。先導事業に3回採択されて、コストに見合った現実性とか、いろいろなことが見えてきたことは非常に成果だったと思います。
 さらに言えば、小さな学校で教員3〜4人で積み重ねてきた教育方法が、今はフォローしてくれる事務局やOBなど私たちの次の世代が支えてくれていて、技術力もアップしているということをすごく感じています。報告書として位置づけている住まいの診断レポート一つをとっても、非常に中身が濃くなっています。この先導事業のおかげで、折れ線グラフで言うと急上昇したという感覚で、本当にありがたいと思っています。

【巽】医療とのアナロジーで住宅のお医者さんというのは、ものすごくユニークで私も感心しております。
 ところで、建物を建てるのには設計者も必要だし、施工者もいるし、その他の職能もいますよね。住宅医というのは、設計者なのか、施工者なのか、それとも検査員とかそういう人なのか、どうなんですか。

【三澤】今回の先導事業での私たちのスタンスはサーベイヤーです。例えば中古物件を買うための検査をする場合、その検査自体が目的ではなくて、あくまでも改修するための調査・診断というところにフォーカスしています。
 お医者さんというのは治すわけですが、治すことと造ることとは視点が全然違うんです。治すというのは本当に難しいです。技術力が要るということもひしひしと感じています。
 ただ、治すのと造るのが違うから、では新築に反映されないかというと大間違いで、治すことを勉強すると、それがフィードバックされていいものが造れるんです。住宅医スクールに来る皆さんも、そこはよく理解してくれています。

【巽】治すことの難しさはどういう点ですか。

【三澤】その場その場で判断しなければいけないことが非常に多いんです。造るということは予想ができる。図面をしっかりかいておくと、私が現場に週1回しか行かなくても大丈夫なんです。
 けれども改修の場合は、工法さえも自分が意図したものではないわけで、ちょっと血圧が上がるぐらい、その場その場の判断力が必要になってきます。
 だからベテランでなければできないとなると普及しないので、若手で経験が少ない人でもできるようにしようというところで住宅医スクールが必要になってくると思うのです。
 皆さんの経験をそこで共有して、私も現場から電話をして、構造担当とか温熱担当に聞いて判断するというケースが多々あります。そういう意味で、新築より予測できない、こんな状況の場合どうしたらいいかとか、こんな病気が見つかったとか、そういう現場でおこる問題を時間をかけずに解決していくことが、改修の難しさかなと思います。

【巽】そうすると、従来は建築の職能というと設計と施工と分かれていますが、設計も施工も一体になった建築士の仕事という感じでしょうか。

【三澤】そうですね、施工方法もよくわかった建築士ということでしょうか。面白いのは、現場で大工さんともいろいろディスカッションするのですが、大工さんは経験知なのです。私たちの役割は、ある程度のデータや実験結果というようなものも含めて、そこで総合判断するということではないかなと思います。私は経験知だけでは不足なことも多いと思っていますので、施工者と設計者との議論が現場で行えることが宝ではないかなと思っています。

【巽】ありがとうございました。三番目は、良質リフォームの会の小林さんにお願いします。

リフォーム工事の標準化を実現
【小林】最初に課題になったのは、補助金200万円というインセンティブの大きさをどのようにお客さんに伝えるかということでした。どうしても会員企業の中では営業的なセールストークで使いたいわけです。「今なら補助金200万円!」と。
 しかし先導事業の条件を満たそうとすると、どうしても工事範囲が広がって大型リフォームになる。それだけの費用が掛かって200万円ですから、補助金があってのリフォームの提案ではないというところを、どうやって会員の方々に徹底するかというのが最初のテーマでした。 
 次に、会として最大の財産になったのが、それまで各社のリフォーム工事の仕様書や基準にばらつきがあったのを、会として標準仕様書にまとめ上げることができたということです。
 断熱工事についても、一戸建て住宅は改修工事の断熱施工仕様というのがある程度はっきりしていますが、マンションの場合にはほとんどないんです。これはたまたま同時期に連携して行っていた省CO2先導事業の方で、断熱施工マニュアルを会としてつくることができました。
 この二つのリフォームの標準仕様書ができ上がったことで、私どもリフォーム事業者にとって非常にありがたい基準ができたと思います。
 もう一つは、補助事業ですので、今までの私どもビルダーにとっては別次元の事務処理に非常に負荷が掛かったんですが、その副次的効果として、現場からの施工写真をきちんとまとめ上げるとか、現場管理側の管理技術のレベルがすごく上がったなと思います。
 最後に設計図書です。リフォーム工事というのは、とかく契約書類、請負契約約款とか設計図書を明確にということがテーマですが、これも各社の設計基準が標準化されたので、大型リフォーム工事に必要な設計図書についても共通認識がとれて、非常に設計力が上がったと思います。

【巽】先ほどの事例発表の中で、良質リフォームの会の会員は3種類あって、1つ目はリフォーム専業、2番目に専門の工種、3番目に建材メーカーとありましたね。このうちリフォーム専業というのは、設計もやり、施工もやり、診断もやり、すべてやるという方ですか。

【小林】ほとんどが設計・施工会社です。中には非常に少人数でやっているリフォーム会社さんで、設計は外部の設計事務所と連携してやっている会社もあります。そちらには、会で決まった標準仕様書等を連携先の設計事務所に提出してまとめ上げるというようなことで対処しました。

【巽】第三者的なインスペクターがいるとおっしゃったのは、会員とは別にそういう方がおられるのですか。

【小林】そうです。インスペクション自体、私どもも今回の採択事業から本格的に取り組んだのですが、協力していただける外部のインスペクション会社のリストをあらかじめ会でつくって、お客様はそのリストの中から契約物件についての検査を直接依頼していただくというスタイルで行いました。

【巽】ありがとうございました。北海道建築技術協会の長谷川さんは、マンションの特に共用部分の改修も手がけておられますね。よろしくお願いします。

分譲マンションの外断熱改修の効果を実証
【長谷川】分譲マンションを1棟丸ごと外断熱改修したわけですが、やってみて悪かったことは全くありません。
 実は、これは補助事業ができたということで始めたのではなくて、その3〜4年前から、建築学会北海道支部や道の行政の方たちといろいろ検討していました。共同住宅、特に住民合意をとる分譲型マンションで外断熱改修をするのは、外壁に凹凸があったりして難しい面があるわけですが、そこでいかに根本的に適切な改修をやるかということを検討していて、その実現の機会を待っていたところに国の補助事業ができて応募したという経緯があります。
 外断熱改修の効果は省エネだけではないわけですが、実際にやってみて、我々が想定していたとおりの効果があったことが実証されました。そして相当事例が増えてきたということで、ますます弾みがつくのではないかと思っております。
 改修後のマンションの入居者の方にアンケートをとりましたけれども、入居者は喜んでおりますし、建物を管理している管理組合の理事者とか修繕委員会の方たちはさらに喜んでおります。今後の修繕などの負担がぐっと楽になるといったあたりが理解されてのことです。
 この補助事業はなくなるということですが、補助金がなくても着実に実行していけるような下地ができたと考えております。

【巽】御承知のとおり、北海道は雪が多くて寒いものですから、かねてから北海道庁のイニシアチブで北方型住宅というのを開発されて、断熱性、省エネ性が研究されて、非常に大きな成果を上げておられます。北方型住宅も先導事業に幾つも応募して採択されていますが、長谷川さんはこの北方型住宅とはどのような関わりですか。

【長谷川】個人的には、道が平成2年から北方型住宅を始めたとき、委員として当初の計画段階から関わっております。それから技術者育成として、北方型住宅を設計・施工・管理できる技術者の制度の関係もずっとやっております。
 今回の先導事業に関しましても、特に「北海道R住宅」という戸建ての改修に関する事業で、建築技術協会の一員として、改修前の住宅の現況を調査する北海道住宅検査人という制度を立ち上げて、研修を行って資格のある技術者を認定することにも関わってやってきております。

【巽】北方型住宅は戸建て住宅が主な対象で、長谷川さんの今日のお話は集合住宅でしたが、何か手分けをしておられるのですか。

【長谷川】特に手分けはしておりませんで、それぞれ関係できる人が関わりを持ちながらやっているという状況です。

【巽】最後に国土交通省の真鍋さん、この事業を企画・立案してこられた立場で、各パネリストのお話を聞かれて、またこれまでの経緯を見てこられて、いかがでしょうか。

先導的なアイデア、ノウハウの普及が今後の課題
【真鍋】このように大規模に提案募集をして、公共団体を経由せずに国から直接民間事業者の方に補助する仕組みは私たちもあまり経験がなかったので、関係者にいろいろとご迷惑をかけたのではないかと思っています。その中で、巽先生をはじめ皆さんに随分助けていただいて、何とか4年間事業を運営してきました。
 2年目からは、むしろ応募される方々のアイデアに支えられて事業が運営されてきたのかなという思いを強くしています。初年度に採択された内容をご覧になって、先進的な部分をどんどん採り入れてパワーアップされていったということが、審査する側でもよくわかりました。内容が高度に洗練されて、充実したものになってきたと思います。
 こういった事業を実施していると、成果を数字で示せと言われることが多く、なかなか難しい面もありますが、長期優良住宅普及促進法に基づく認定住宅は既に24万戸を超えています。一方、先導事業で採択されたアイデアは全部で330ほどですから、1件当たり100戸だとしても、数万戸というオーダーの住宅がこの先導事業により整備されたということになります。
 長期優良住宅全体の中に占めるシェアはさほど高くないかもしれませんが、この先導事業で実現された住宅は、長期優良住宅の一般的な水準と比べて先導的な新しいアイデアが盛り込まれたものになっていると思います。
 今後は、そうしたノウハウを、今まで取り組んだことのない方、あるいは取り組みの不十分な方にどう情報提供していくか、普及していくかということが課題ではないかと思っています。
 この点に関しては、ご存じかもしれませんが、昨年の12月26日に先導事業の実績について公開するwebサイトを開設しました。開設に当たって、データ提供に関して提案者の皆さんにご協力をいただいたので、この場を借りてお礼申し上げたいと思います。こうした実績なり取り組みの過程なりが、これから長期優良住宅に取り組む方、あるいは長期優良住宅を超えてさらに上のレベルを目指そうとする方に、大きな道標になるのではないかと思います。
 また、4人の方のお話を聞いて、事業者の意識が向上した、技術レベルが向上した、あるいはネットワークが広がった、仕様書・マニュアルのような具体的な成果が得られたとお聞きして、心強く思いました。

【巽】ありがとうございました。
 今、5人の方から口々に、長期優良住宅先導事業はかなり優良な成果があったのではないかという評価をしていただいたと思います。
 それでは次に、そういう成果を踏まえて今後これをどう発展させたらいいのかという観点で、もう1ラウンド皆さんにご意見を伺いたいと思います。
 まず住宅医ネットワークの三澤さん、住宅医を育てるという人材育成の側面から、如何でしょうか。

消費者に認められる住宅医の認定制度
【三澤】おかげさまで住宅医スクールも皆さんから声が掛かるようになりました。各地でセミナーや講演をすると、終わった後で、「私も住宅医スクールに行きたい。」というようなことを言ってくださいます。来年度も、大阪、東京、岐阜でスクールが始まるのですが、そこでの広がりがまた期待できると思います。
 その際、住宅医を育てることとあわせて、住宅医をどのように認定していくかということが、私たちの目下の検討事項です。
 この認定を誰がするのがいいか随分議論もしましたが、今のところ私たちのネットワークが認定するということでいいのではないかと考えています。要するに中身の勝負、認定したその人の勝負だというところを特に重視してやっていこうと思っています。
 そこで、まず今年から来年あたりは、住宅医それぞれの技術力のアップに加えて、認定制度をしっかりと形づくっていくことで、消費者の方々に住宅医を認めていただくという時期に来ているかなと思っています。
 ただ、消費者の方々にどのように認めていただくのかというところが目下思案のところで、消費者向けの本も出したりはしているのですが、今日の松村先生のお話にもあったように、地域のまちづくりというようなところで少し活動を始めている人たちもいます。それに期待しながら、ここ1〜2年で成果を出したいと思っているところです。

 

【巽】ありがとうございました。次に良質リフォームの会の小林さんに伺いたいのですが、リフォーム専門事業者の立場から、今後のリフォームのターゲットあるいは課題はどこにあるでしょうか。

リフォームに取り組むユーザーに対する普及啓発
【小林】今日のシンポジウムで、私は19件の大型リフォーム工事の実績に基づき報告をしたわけですが、本当は、先導事業でリフォームをされた実際のユーザーの方の声を聞いてもらえる機会があるといいと思いました。というのも、皆さん非常に満足度が高いのです。そのことを、これからリフォームに取り組もうと思っている方々に伝える場が欲しいのです。
 大型リフォームをされる方というのは、皆さんが昔に新築住宅を購入をされた方々で、先ほどの巽先生のお話ではないですが、「住み継ぐ」ための大きなリフォームということで構造躯体以外は全部作り直すわけですから、言わば初めての家づくりになるわけです。
 そのとき私どもリフォーム事業者は、ハードのスペックとか設計基準はわかるのですが、実は、30年住んでいた方がその住宅を一番よくご存じなんですね。自分の家ですから、長所短所はわかっている。それをどのように生かしてリフォームし、快適な家を再生できるかというテーマに取り組むわけで、そこは生活者であるユーザーと私ども設計提案者、ビルダーが共同作業でやることが求められます。
 そこでのコミュニケーション能力というか、やり取りをどのようにスムーズにするかといったことが重要な課題で、そのためにはユーザー向けのセミナーとか、あるいは実際にリフォームを体験された方の評価とか、直接ユーザーに向けて普及啓発できる場をつくることも大きなテーマになるかと思います。

【巽】ありがとうございました。それでは、次に北海道の長谷川さんにお願いいたします。

入居者の外断熱改修への理解を深めること
【長谷川】外断熱改修はマンション丸ごとですので、実績としてはまだ1桁ですが、これから普及していくための課題が3点あります。
 一つは、分譲マンションに住んでおられる方の合意の形成ですね。改修した後の効果等を書いたパンフレットなどを用意して説明はしているのですが、それでもまだ具体的な点について疑問が出されます。そういう疑問に答えられる外断熱改修のアドバイザーの制度をつくり、現在7人ですが、そういうアドバイザーが何度も足を運んで入居者への説明とか疑問に答える場を増やしたいと思います。
 二つ目として、外断熱改修をすると通常の補修などの倍近く費用が掛かります。先導事業では、1棟当たり2,000万円ぐらい国から補助金をいただいているわけですが、これがなくても通常の維持保全費として積み立てていけば成り立つということはお示ししているものの、なかなか理解してもらえません。そのあたり、パンフレットだけではなくアドバイザーの助言や実例なども通して、入居者への普及を図っていきたいと思っております。
 三点目としてコスト削減について、技術的に難しいことはありませんので、関係する資材メーカーや施工会社と連携協力しながら、実現に向けて一層努力したいと思っております。
 なお、外断熱改修そのものを全く知らないという方も結構いらっしゃるので、今現在マンションに住んでおられる方への一般的な普及啓発を、様々な機会を通して進めていきたいと考えています。

【巽】ありがとうございました。それでは、工務店サポートの鈴木さんにお聞きしますが、たくさんの会員を持っておられるので、その中で長期優良住宅を普及するのが課題になるのではないかと思いますが、如何でしょうか。

レベルの底上げと新築からリフォームへの展開
【鈴木】我々は先導事業で3回採択を受けまして、申請数は毎回500棟ずつと非常に数が多いのですが、それは工務店業界全体のレベルアップのためという目的があります。
 工務店というのはどんな地域にも存在する業種であって、地域の特性を非常によく理解しています。要は、地域の家守りをする役割としては非常に心強い存在だと思っています。せっかく全国展開があるので、一つの業界として、レベルの底上げをしていかなければならないというのが課題になってくると思います。
 また、リフォームに関しては、これからは新築をやってきた工務店もリフォームのウェートを上げていかなければならないと思うのですが、その際に、せっかく新築の先導事業をやってきた工務店には、リフォームについても先導事業並みの性能ということを必ず考えてやって欲しいと私は思っています。

【巽】ありがとうございました。
 実は私は住宅リフォーム推進協議会の会長を務めておりますが、最近「長寿命化リフォーム」と言いまして、リフォームによって住宅を長寿命化しようということを大いにPRしております。各地で講演会や講習会を開いておりますので、また来ていただければありがたいと思います。
 さて、長期優良住宅先導事業はこれで一応終息なのですが、今後の国の政策としては、どうも住宅リフォームの方にシフトしていこうというお考えのように聞いておりますが、真鍋さん、そのあたりのお考えをお聞かせください。

中古住宅・リフォームに関する施策を総合的に展開
【真鍋】誤解がないようにお断りしておきますが、長期優良住宅先導事業については今年度で終結するものの、法律に基づく長期優良住宅の認定制度そのものは存続します。認定を受けた住宅についての税制上の優遇制度や、「木のいえ整備促進事業」といって中小大工・工務店さんが長期優良住宅を供給される際にお手伝いをする補助制度なども、24年度に拡充しつつ存続いたします。
 しかしながら、それらは長期優良住宅の認定を受けた新築住宅についての支援策ですから、リフォームということではないんですね。今は法律に基づく長期優良住宅の認定基準は新築のものしかないので、既存住宅あるいはリフォームした住宅の認定基準が必要ではないかとの指摘があり、従来から課題になっています。
 なお、新築の長期優良住宅の認定基準についても、特に共同住宅の基準について見直すべきではないかというご意見が多いものですから、先日見直し案につきパブリックコメントをしました。この点も宿題になっています。長期優良住宅先導事業の中でもリフォームの提案を多数いただき、実績も相当上がってきたので、そうしたものを見ながら、次の基準の検討に生かしていければと思っております。
 実は、年明けから1月31日まで、「中古住宅・リフォームトータルプラン」という政策の次の方向性を示す大きな工程表について、パブリックコメントを実施しました。かなりの意見をいただいていると聞いておりますが、これは国が行う政策だけではなく、民間の方々や地方公共団体をはじめ様々な立場の方が、リフォームや中古住宅市場の見直し・活性化にどのような役割を果たしていくのかということについて、学識経験者の方々にも長時間ご議論いただいてようやく案を取りまとめたものです。
 今後、パブリックコメントでいただいた意見をもとに最終的に取りまとめていくわけですが、その中には、例えばリフォームを支える保険や金融システム、技術開発、担い手の育成、評価制度など、リフォームにまつわるいろいろな政策の柱が位置づけられております。ぜひご覧いただければと思います。
 後ほど村上課長補佐から説明するかと思いますが、来年度実施するリフォームの支援策が幾つかございます。そうした支援策もぜひご活用いただいて、いいリフォームをしていただきたいと思います。

【巽】ありがとうございました。
 パネリストの皆様から大変充実したいいお話を伺いました。最後に私からも一つだけ申し上げて終わりたいと思います。

地域に根ざした地域型の長期優良住宅を
【巽】冒頭の基調講演でも申し上げましたが、この先導事業は国が定めた基準に則って募集して、我々が審査して先導事業として認めてきたのですが、実はあまり応募いただいていない方が建てられた住宅の中にも、地域に長く定着した長期優良住宅があると私は思うのです。
 例えば北海道からは何回も応募がありましたが、沖縄からは提案をいただいていないのです。北海道では、寒さ対策あるいは雪の対策ということで、比較的目標がはっきりして数値的にも詰めていくことができるわけですが、沖縄では、台風対策、シロアリ対策をはじめ様々な複雑な問題があって、なかなか長期優良住宅の制度に乗っていただけないという状況があると思います。
 それから、私の住んでおります京都にも、伝統的な優れた住宅がありますが、それらは伝統工法で造られておりまして、今の基準に必ずしもうまく乗ってきていないのです。私が住んでいるところの身びいきかもしれませんが、あまり金物を使わない籠のようなつくり方で、地震に対してゆらゆらと揺れながら耐えるような非常に優れた工法なのです。ただ、計算に乗りにくいので、これまで応募していただけなかったのですが、これも地域に長く定着した長期優良住宅の一つの候補になると思います。
 そのほか、各地に伝統的なやり方で建てる優れた住宅があると思うのです。したがって、そういうものを時間をかけて発掘して、それぞれの地域に根ざした地域型の長期優良住宅を見つけていかないといけないのではないかと思っております。
 時間が参りましたのでこれで終わりますが、どうか皆様方、長期優良住宅先導事業の成果を十分酌み取っていただいて、今後の長期優良住宅の普及発展にご尽力いただければありがたいと思います。
 今日は長時間お付き合いいただき、ありがとうございました。(拍手)


※当日の配布資料はこちらでダウンロードできます。

 

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