■建築研究資料

大震時被害及び避難予測パイロットモデルの開発研究

第六研究部

建築研究資料  No.7,  1975,  建設省建築研究所


<序>

  災害は地球上の様々な自然現象によってもたらされるが、“害”となるべき最大の要因として、そこに人間・人工的施設が存在することがあげられることは言うまでもない。
  しかし、大都市においては、人口・産業の集中化が数多くの問題点を提起してはきているが、中でも不意に何の前ぶれもなく襲ってくる地震に対する脆弱性が多方面にわたって累積しつつある。すなわち、産業・経済・文化の発展にともなう都市への人口・管理機能の集中、自動車の激増、ターミナル地域における巨大な地下街、高層建築物の増加、市街地における石油類の消費の激増、貯蔵所・搬入量の増加等の都市を支えてゆくがために必要な活動・施設の輻輳によって、大震時における都市の安全性の欠如が蓄積されつつある。
  この様な状況にかんがみ、昭和46年5月、中央防災会議は、「大都市震災対策推進要網」を決定し、その中で震災に関する抜本的対策を樹立するためには震災に関する各種の研究を基盤とすることが必要であり、すでに各研究機関により研究の成果があげられているところではあるが、さらに重点的に研究を推進すべき研究開発課題として「人的被害、および、避難に関する研究」、「地震時における出火・延焼に関する研究」等を指摘した。これを受けて各研究機関において「大規模建築物・地下街の火災煙害防止に関する研究」(建設省)、「大震火災時の焼失範囲の推計に関する調査研究」(東京都)、「大震災時における危険物施設の配管の耐震性に関する研究」(自治省)等、多くの研究がなされてきた。
  しかしながら、被害予測にあたっては、なお若干の点が不確定の状態にある。すなわち実際の火災の機構や煙の拡散の問題が完全に解明されてはいないし、また、これらに加えて、都市の象徴とも言える巨大なビル、大規模な地下街などの出現による流動人口等の活動量を考慮した地震災害の総合的な研究はいまだにおこなわれていない。
  本研究はこのような背景のもとに、大震時における震度分布、建物・建造物等の崩壊、水害、出火、延焼、避難、人の被害の各サブシステムを総合的にリンクした大震時の被害予測のためのパイロットモデルを構築した。モデルの構築にあたっては、既存の研究成果を利用しながら各サブシステムを構築し、すべてのサブシステムを作動させ得る東京の江東区をケーススタディ地区として取り上げ、地盤状況、人口分布、建物分布、道路等の詳細な実態調査もあわせておこなった。
  今后、これらのデータを利用しながら、主として、避難、人の被害に焦点をあてて被害に影響を及ぼす要因を探索することによって、地域防災計画の立案、防災地域の指定、避難施設設置基準の策定等において大きく前進することが可能となる。
  なお、本研究は、科学技術庁特別研究促進調整費によって昭和48年度から3ヶ年計画で、自治省消防研究所、東京消防庁、建設省建築研究所第6研究部が研究の推進役として進められている「大震時における総合的被害予測手法、および、災害要因の摘出手法に関する総合研究」の一環としておこなわれたもので、本作業ペーパーはパイロットモデルの構成及びモデルケースの演算につき詳述したものである。また、このパイロットモデルの開発研究にあたっては、藤井澄二東大教授を委員長とする大震時の被害予測手法研究委員会と崩壊分科会(分科会長、梅村魁東大教授)、地震水害分科会(同、高橋裕東大教授)、出火分科会(難波桂芳東大教授)、延焼分科会(柴田碧東大教授)、避難・人の被害分科会(中野尊正東京都立大教授)の5つの分科会を構成した。モデルの電算化は本研究所第6研究部梶秀樹研究員(現在東京工業大学助教授)の指導のもとに日本ユニバック総合研究所古村哲也研究員が担当した。
  こゝに上記諸氏の御盡力に対し厚く感謝の意を表すると共に、本作業ペーパーがこの分野の研究開発に貢献することがあれば幸甚である。

昭和50年1月


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