■建築研究報告

京都市の不良住宅地区(三條地区の現況調査)

新海悟郎, 三輪 恒, 松岡春樹

建築研究報告  No.11,  昭和27年6月


<概要>

  最近住宅不足の問題と並んで,住宅の質の改善が叫ばれるようになり,その具体的現れとして戦争により昭和13年以来中絶されていた不良住宅地区改善の事業が再び脚光を浴びようとしている.
  すなわち昭和27年度建設省予算の公営住宅建設費の一部をもって地区改善が計画されている.
  たとえそれが公営住宅法による第2種公営住宅として,東京,京都,神戸における不良住宅地区に僅か数十戸が昭和27年度に建設さるにしても,これが先鞭となり不良住宅地区の改良事業が軌道に乗らんとしていることは,この問題に深い関心を寄せる吾々として洵に同慶に堪えない.
  吾々はかねてよりこの不良住宅地区に関する調査を進めてき,すでに昭和25年には神戸市番町地区調査を,昭和26年には大阪市長柄地区調査を行ったが,今回京都市における代表的不良住宅地区である三条地区の調査を試みたもので,本文はその調査報告書である.
  京都の不良住宅地区は楽只,養生,錦林,三条,壬生,崇仁,竹田狩賀,深草加賀屋敷の8地区が代表的なものであり,これらは資本主義社会機構の副産物として発生した東京,大阪等におけるスラムと趣を全く異にし,何れも古い伝統を有し,長い多難な歴史の変遷を重ね来たった所謂特殊部落として形成されているものである.
  中でも三条地区はその発生の歴史は古く,しかも祇園,三条大橋筋等盛場によって抱擁されている京都市としても中心をなす地域に残存しているため,従来しばしば問題にのぼった地区である.
  かかる事情にあるため,この地区の調査は昭和2年不良住宅地区改良法が施行されてから,数度に亘って調査が行われてきている.すなわち,昭和2年および昭和12年には全住戸の悉皆調査が京都市社会部の手によってなされ,昭和25年に抽出調査が京都市民生局によって実施されている.
  吾々の行ったこの調査は京都市管財局並びに民生局との共同の下に行ったものであって,その調査の狙いとする処は,さきに行われた諸調査結果との時間的変遷をみることは勿論であるが,主な目的はこの三条地区改良事業を施す際に,直接必要となる資料をうることにあり,これに併せて家屋の状況,生活状況,不動産の所有関係等の現情を知り,今後他の土地において不良住宅地区指定の際に,その地域を判定する基準を考えるに必要な資料を得ようとしたものである.
  本調査では地域内の土地については各筆の規模,評価額,所有等を,家屋については形式,所有,年令,普請程度,老朽程度,設備程度,家賃等を項目により悉皆或は抽出調査により調べ,また居住者については抽出調査により世帯構成,職業,居住期間,居住状況等を調査したものである.
  不良住宅地区調査としては,その地区形成要因の一つである居住者の教育状況,保健状況,或は不良住宅地区なるがために生ずる社会悪の実情にまで亘るべきであろうが,さきにも述べた如く,地区改良事業のための計画資料を得ることが最大の目的であったため,これらは他に譲ることにした.
  調査は建築研究所  新海悟郎,三輪恒,松岡春樹の3研究員が担当し,現地調査は昭和26年11月1日〜10日の10日間に京都大学建築学科学生ならびに同志社大学社会科学生の助力をえて行い,土地,家屋台帳調査は同年4月に東山区役所の協力を受けて行ったものであり,調査票の集計は建築研究所において手集計によりこれを行った.
  報告書の作成にあたっては新海が執筆を,三輪が主として図表の作成を担当した.
  調査の実地に当っては京都市民生局,管財局,東山区役所及び三条隣保館の関係職員の方々並びに土地の全居住者の方々の理解ある協力を得て始めて完遂し得たものであることをここに記してこれらの方々に深甚な謝意を表したい.

昭和27年4月
建設省建築研究所第1部長  新  海  悟  郎

建築研究報告一覧へ戻る |  出版物へ戻る



前のページに戻る



 所在地・交通案内
関連リンク
サイトマップ
お問い合わせ
リンク・著作権


国立研究開発法人 建築研究所, BUILDING RESEARCH INSTITUTE

(c) BRI All Rights Reserved