■建築研究報告

住宅経営費用に関する研究

谷  重雄

建築研究報告  No.13,  1954  建設省建築研究所


<概要>

  この研究は住宅の経営維持に重要な関係をもっている費用について基礎的な考察を行ったものである。この費用を構成する各要素や費用に影響を及ぼす各因子について分析を加え、統計的資料によって若干の法則関係をも得たが、主眼とするところは各要素・因子の構成する体系理論的考察によって明らかにすることにあった。何故体系の形成を目標にしたかというと各要素の基準値が、この体系を基礎において考察するのでなければきまらないからである。
  たとえば家賃を計算するために減価償却費の基準を得ようとすれば、減価自体が経年に従いどのように生ずるかが明らかでなければならない。ところが建物価格は家賃収益によって左右されるから、減価を考察する前に家賃の大きさが与えられていなければならない。このように考え方が循環するので、一つの費用要素だけを対象としていたのでは基準値が得られない。
  費用ばかりでなくこれに関係する因子についても同様である。たとえば減価償却には家屋の耐用年限の長さが大きく影響する。この耐用年限の長短は家屋の質にもよるが、維持修繕の程度にも左右される。そこで減価償却費を小さくしようとすれば修繕費を大きくしなければならないという問題が生ずる。従って耐用年限が外から与えられて各要素費用を規定するのではなく、逆に各要素費用の適当な均衡のところで内部的に耐用年限が設定されなければならない。即ち耐用年限は各要素費用の函数でもある。このように各要素・因子が多数の連環線上に位置しているので、先ずその連環の形を一つの体系の上にまとめあげることが急務と感ぜられたわけである。
  ただこの体系に至るまでに解決しておかなければならぬ技術的な問題がいろいろとある。たとえば建築費や修繕費の構成やその変動のしかたである。とくに時系列における変動は時期の異なる各調査値を一定時期の価格水準に換算して考察するためにまっさきに必要である。それで本稿では多くの費用についてできるだけ長期にわたる指数を作成することを心がけた。
  しかし変動の問題は単に指数の作成を以て終わるものではない。この研究で試みた費用体系の形成は経済環境に変動のない場合を想定した静学的なものである。従って問題は当然動学的な考察に移らねばならないのであるが、本稿はそこまで立至らず、他日を期することとした。ただ指数を利用して変動に関する現象的な性格をつかむことにとどめいている。
  本稿は7章から成っているが、第1章から第6章までが各論、第9章は結論的なものである。各論の章において費用要素または因子のうちさしあたって重要と思われるものをそれぞれ一応独立的に考察した。しかし最後に一つの体系を形成し得るよう相互の連絡を常に念頭においた。というよりは一つの体系を各側面から眺めたという方があたっているかもしれない。

  第1章は建築費関係の長期変動を明らかにすることを目標としたが、あわせて材料・労務その他の構成要素の時系列変動を考察した。そして各要素の変動を一般物価のそれと比較した相対的価格変動によってそれぞれの性格を一そうはっきりさせることができた。また建築費における各要素の構成比の過去長期にわたる変化をも通観できるようになった。

  第2章においては修繕費をとりあつかった。修繕費の性質上長期にわたる豊富な統計値を得ることが困難なため、精確な基準値はもとめがたいが、その構成比率、経年変化等に関し一応の目安を導いた。また修繕費の基準値について、後章で得られる函数関係を利用してその最も経済的な値を検討した。

  第3章では建築の価格形成について理論的な探求を行った。先ず建物価格の性質を概観し、現在行われている各方式を批判した後、一般価に関する経年変化について、持家の場合は維持費用の均衡原則、貸家の場合は収益の資本還元原則を利用して函数式を導出した。導出の方式は二途に分かれたが、結果は同形の函数に到達している。この式は経年の函数であるとともに、他の各要素或いは因子の函数でもあり、目標とする費用体系の根幹となるものであった。

  第4章は耐用年限について、その意義と性質を省察し、経済的耐用命数に着目して、本研究の一環として導かれる耐用年限の理論式を考察したものである。また別に耐用年限を統計調査値によって求める一方式として平均余命数の観念を導入し、これによって各都市の家屋年齢構成表から耐用年限値をもとめ、その値の経過年数に対する函数関係をも検討した。

  第5章は家賃に関してまとめたものである。先ず家賃の性質を考察し、ついで過去の各時代における家賃に関する変遷の状況を調査してその動的性格を明らかにした。それからこの体系内で考えられる家賃の理論値或は他の要素との函数関係をもとめた。またこの理論式から近似式を導いて家賃の略算式を得、あわせて従来の計算便法について検討を加えている。

  第6章では土地の費用にうつり、その価格形成における根因や、地代と地価との関係について一応整理を試みた。ついで価格の時系列変動を指数値の作成によってその特殊な性格を明らかにしている。なお土地と家屋の規模の関係から来る地代または地価の変動をも住宅集団の状況と条件とを想定して両者の函数関係を導いた。

  第7章は結論として、以上各章で独立にあつかった各費用の相互関係を考察し、焦点を費用の体系と費用の変動の2点においてまとめたものである。

  結論のなかには住居費と家計費との関係をとりいれているが、この関係については別途、建築学会論文集で発表しているのでこの報告に収録しなかった。詳細については同論文集第47号「住居費函数の計測とその限界について」を参照していただきたい。

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