■建築研究報告

産業住宅の研究

新海悟郎, 入澤 恒, 日笠 端, 松岡春樹

建築研究報告  No.5,  昭和25年7月


<概要>

  終戰後經濟再建のため,基礎産業の傾斜生産が強行されるに當り,その隘路打開の一方策として,それに從事する者の住宅問題の解決が大きく抬頭し,この對策に政府もまた企業體も鋭意努力を傾注してきたことは周知の通りである。
  しかし諸般の經濟事情から,今日もなお炭鑛住宅を除く重要産業住宅にあっては,量の點においてすら解決のつかぬものが大半であって,質の點に於ては多くの問題を殘したまゝの姿で放置されている。
  これらに關する問題の所在を分析し,重要産業に附隨する住宅對策の資料を提供することを目的として,われわれは昭和23年度より重要産業住宅の調査研究に着手したが,炭鑛住宅については一應の檢討を終えたので,その繼續として重要工場の住宅問題に研究を押し進めることとし,ここに,我國における最大の工場であり,しかも住宅難に最も深刻な惱みをもちつつある八幡製鐵所を對象にとり調査を行った。
  八幡製鐵所は現在(昭和24年5月)34,000人の從業員を擁しているが,その1/3は現在住宅困窮者である。これは會社の給興する住宅が全從業員の僅か1/3しか収容出來ないことに起因しているが,一方從前多數の從業員が居住していた八幡市が約3割戰災により喪失し,著しく收容能力を減退したためにもよっている。そのため從業員の住宅難は,家主からの追立,家族との別居生活,遠距離通勤,または過密住,同居生活,家屋老朽化等による住生活の低下,あるいは結婚難等の形で現われ,それが直接に作業能率に大きく影響している。
  この住宅難解決のため會社は尨大な社宅建設計畫を樹てているが,現下の資金難はこの事業の遂行をはばんでいる。
  八幡製鐵所はかかる住宅事情におかれているため,現在多くの問題を殘している。
  その問題として,勞働力構成の上からみた住宅困窮者の偏在,社宅配分の不適正,職種による住生活の懸隔,社宅居住者とその他との居住費負擔の不均衡,社宅地立地の不合理性,厚生施設の不備と不均衡等々が指摘されることは,他の重要工場における場合と同様である。これらの問題が如何なる形で,また如何なる程度に存在しているかを究明するために調査を行ったものであるが,調査對象が尨大であるため調査不足の部面が多く,吾々の意圖するところを滿足させていない嫌はあるが,産業住宅の現在もっている問題の所在とその程度とが,その輪廓でも,本文から理解し得られれば幸である。
  本調査は日本製鐵本社技術部および八幡製鐵所勞働部の理解ある協力をうけ,昭和24年6月現地に2週間滯在して行ったものであって,調査にあたっては八幡製鐵所關係職員,八幡市建設局建築部職員の絶大なる助力をえ,福岡縣建築部職員,および勞働科科學研究所石堂正三郎氏,建設省住宅局田中好雄技官と共同で行ったものであり,また調査票の集計整理は,すべて建築研究所第1研究部職員の手になるものである。こゝに記して深甚なる感謝の意を表する。
  なお本文は次の報告書より要約集録したものであって,本文作成にあたってはI章は新海,II章は新海,松岡,III章は新海,入澤,IV章は日笠,入澤が主として擔當したことを附記しておく。
  1. 建築研究所第1研究部「住宅難の所在(八幡製鐵所從業員の居住現況調査その1)」

  2. 新海,入澤「製鐵所社宅居住者の居住の實態(八幡製鐵所從業員の居住現況調査その2)」建築研究所要報第94號

  3. 日笠,入澤,石堂「製鐵所厚生施設の實態(八幡製鐵所從業員の居住現況調査その3)「建築研究所要報第95號」

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