論文募集「21世紀理想の住宅」審査委員講評

 

<審査委員長 村上周三(慶應義塾大学教授)>

“住宅”というテーマに関しては、過去において既に語り尽くされており、二千字以内に制限された論文の中でどのような“夢”に出会うことができるか、審査の前にはやや心配していたのが偽らない気持ちであります。住宅は、我々の日常生活の中であまりに身近で、あまりに大きな位置を占めているため、逆にこれについて “夢”を語るのは容易ではありません。このような困難にも拘わらず、今回の応募論文には数多くの力作が含まれており、審査する側としてはレベルの高さに安堵すると同時に、選考に苦労したというのが実情であります。審査のための論文読破は大変楽しいものでした。

選ばれた論文はいずれも、住宅に関してこんな視点があったのかと感心するものばかりで、住宅問題の奥の深さを実感しました。高い評価を得たものは大きく二つに分類されます。一つは、建築専門家から見て際だってレベルの高い考え方、アイディア等を示した論文であります。他の一つは建築専門家の立場を離れて、素人の立場からはっとするような視点や夢を提示した論文でした。惜しくも選外となった論文の中にも秀れたものがたくさん残されております。

今回寄せられた多くの秀れた応募論文は、今後の住宅政策や新しい住宅産業育成等にさまざまの形で幅広く活用されるものと期待しております。

 

<審査委員 大久保恭子(株式会社リクルート執行役員)>

住宅や建築の専門家だけではなく、広く一般のかたがたを対象とした、今回の論文募集の審査にあたり、私が審査基準として重視したのは、提案内容に独自性があること、実現の可能性があること、夢や情熱がかんじられること、の3項目でした。

そうした観点から、特に興味深かったのは住宅のプランづくりから建築までをインターネット上で試みる「電子雑誌あこがれナビで選んだオートマチック大工の家」。および日本サスティナブル法制定により、性能の優れた家づくりをめざす「理想の我が家の建築記」でした。

両論文とも、ユニークな次世代型住宅取得システムを提案した点を評価しました。

 

<審査委員 隈研吾(建築家)>

 建築物の設計図を書く仕事をしている僕のような人間からみると、「理想の住宅を文章で表現することは可能だろうか?」といのが最初の印象であった。しかし、応募作を読んでいるうちに、この見方は逆転した。言葉を作ってしか表現できない理想の住宅が、どうもありそうなのである。

 20世紀には確かに、カッコのいい住宅、写真写りのいい住宅がもてはやされた。そういう時代には、言葉より図面であり、言葉より写真なのである。しかし、21世紀には、見かけは地味でも、デザインはダサくても、その中にほのぼのとした価値を内蔵させたような住宅が見直されるかもしれない。そういうほのぼのとした、見てくれの悪い住宅こそが21世紀の理想の住宅かもしれないのである。この論文コンペを通じて、そんな新しい時代の住宅が次々に生まれてくるような予感がした。

 

<審査委員 妹島和世(建築家)>

21世紀の理想の住宅」というテーマについて、さまざまな年代の方から実にいろいろな視点の論文が集まり、読んでいて楽しい審査でした。全体としては、環境問題に代表されるような住宅についての問題点についての概論のようなものも多く、そういった論文にも良いものがたくさんあったと思いますが、個人的には、自分の理想の生活や住むことの楽しさについてふれた論文により魅力を感じました。

 

<審査委員 葉青(作家)>

全体傾向としては、日本人の心の中にある未来の住まい像は、環境重視、自然による生活電力と生活物資の自給、リサイクル循環社会、緑との共生、安らぎ空間、家族関係の再生、新たなるシステムのローコスト(安価)住宅への渇望、都市から地方への移住…等、「自らのより高い“生き方”を望む」ものであったと思えた。それはすなわち、精神的な“幸福”を求めるものであり、日本人はすでに物質文明から乖離しつつあることを感じた。

 日本人はおそらく、世界の中でも最も庶民レベルで、「地球環境」を考えている民族ではないだろうか。これはすなわち、日本は近未来、「環境大国」として世界をリードしている可能性を示唆しているだろう。だから30年後、日本は世界のモデルとなるべく、「理想の住宅」の実現を叶えて欲しい。その関係機関は、是非奮闘してもらいたい。

 ひとつだけ残念だと思えたことは、現在食糧自給率40%の日本人に、その危機感がほとんど見られなかったことである。住まいや地域を「緑」で覆うのは当然だが、やはり自宅や公共スペースでの、食糧自給のプランを出してもらいたかった。「衣食住」…この語は本当は「食住衣」となり、「食べる」ことが、常に人類を争わせてきたのであるから。

 

<審査委員 佐々木宏(国土交通省住宅局住宅生産課 課長)>

今回の応募論文には、受賞作品をはじめとして、斬新な提案に富んだもの、住宅に関する強い思いが込められたものなどこれからの住宅のあり方に関わる優れた作品が数多くありました。その中で受賞作品はいずれも現在の家づくりに対する問題の認識を踏まえて、2030年の家づくりについての優れた提案を行っている点が、単なる夢にとどまらない説得力に繋がっていると思います。もちろん、受賞作品に示された内容があるべき姿なのか、いろいろな意見があることと思います。しかし、これからの家づくりを考えていく上で忘れてはならない視点を提示することは大切なことです。これらの作品がこれからの家づくりのための貴重な礎となることを期待します。

 

<審査委員 奥井功(社団法人住宅生産団体連合会 会長)>

わずか2000字で21世紀の住宅像を語るのは少し無理があるのではないかと思ったが、応募の作品はいずれもそういった制約を超えて、かなりのレベルの考え方が反映されていた。特に3点の最優秀賞については、住宅に対するしっかりした哲学を基礎に持って、その上で具体的な発想を行い、時代を反映した環境共生的な考えを色濃く打ち出していたように思う。ただ私の個人的な意見では、21世紀理想の住宅といえども、現在の住宅から大きくかけ離れたものにはなり得ないと考えるので、主に住宅に収容する設備関係、あるいは住宅を構成する部材、あるいは住宅を作るシステム、これらの点が新しくなるのではなかろうかと思っている。

 

<審査委員 山内泰之(独立行政法人建築研究所理事長)>

 応募論文の論点として、住宅個体のハード・ソフト、家族との関係、コミュニティとの関係、社会制度・システムとの関係などいくつかのカテゴリーに分けられるようだ。さらに、それらのベースには共通項として現在の日本の住宅やそれを支えるシステムに対する不満と不信が感じ取れる。住宅については誰でも何かは語れる。しかし、何を理想とするか、あるべき姿について語ろうとするとき、その課題の奥の深さに戦慄くことになる。この点で受賞論文は、いずれも新しい提案と主張を優れて果敢に語っている。また、選にもれた論文にも考えるべき優れた論点が多くあったことは言うまでもない。この場をお借りし、応募いただいた全ての方々に深く御礼申し上げる。

 

 

 

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