最優秀賞(国土交通大臣賞) 福井克也(キーイングホーム株式会社)
 
作品名:電子雑誌「あこがれナビ」で選んだオートマチック大工の家
 
「あこがれナビゲータ」
私達夫婦は家を建てようと思い立った。昨今、書籍は雑誌を含めeメディアとよばれるワイヤレスWeb上で配信される。私達が購入した「あこがれ住宅ナビ」という雑誌は、最新MODEから伝統和風までおおかたのテーマを網羅した住宅誌である。内容はすべてeノート呼ばれる雑誌型のディスプレイシートに送られ、文字と写真はむろん動画や音声までを再生する。
この雑誌の特徴はリアルタイム双方向性。eノートの画像上にチェックマークというボックスが隠れている。そして、私達夫婦はデザインや生活イメージの共感できる部分を画面上で「好き」と指先でマルを描いてゆく。写真や文節など、どこでも良い。あまり考えずに好きなアイテムや絵や言葉が出てくれば○。反対に避けたいモノは×。称して「いいよね!チェック」。もちろん○の後に「検索」をタッチすればそのアイテムの詳しいプロフィールがでる。便利なものだ。住まい手のインタビュームービーや、建築家とのテレビチャットもある。私達は時を忘れて憧れの住生活を乱読する。まずは音声ダイアログに従い私の家のイメージや条件を答えてみよう。先ほどの○×をふまえて、もっと私達好みの内容に入れ替わるはずだ。
このe雑誌にはキーワードやイメージグループのヒット数を分析する機能が備わる。ページの閲覧状況から複数回答集計を継続的に行ないパソコンが自動的に読者の嗜好を分析し蓄積し続ける。そして個々、属性別、全体それぞれに読者の関心の順位付けと、関連データーベースへのアクセスキーワード整理を自動的に行う。いわば住まい関連のPOSシステムであるが、普通のPOSとの違いは多数の業種でこのデータ―ベースのインフラを構築し共有する点である。建て主、設計者、生産者、資材供給者、不動産業者、資金提供者、メディア、等がオープンなネットワークで結ばれ、さらに行政の登記簿GISにもリンクし、教育分野にも利用される。例えば設計者は作品プレゼンと読者情報が合致する提案を行なう。建材メーカーは売れ筋を把握し新しいトレンドを分析する。読者は建てる意思と希望を明確化する。土地情報の入手や建築資金シュミレーションも行なえる。当然この時点での読者の匿名性は厳格に確保されている。
あるとき突然、e雑誌が私好みのイメージを提案し始めた。早速、レンタルのバーチャル3Dルームに足を運び閲覧する。私達だけのe雑誌「あこがれ住宅ナビ」が出来あがったのである。体を中心とする6面に次々と求めるインテリアが現れる。妻の意見も満載である。
 
「オートマチック大工さん」
私達がWeb上で公開した「あこがれデータ」はその後各種専攻建築士にバトンされた。複数のデザイナーが画期的な建築手法を競い、その答えの一つがこの「オートマチック建築」である。建物全体を屋根から単一材料でシームレスに建設する。
CAD図面の3Dモデルに従って、固化ヘッドが何度も往復して下降トレー内に満たした粉体もしくは液体を上から下に継ぎ目無く躯体の形状に凝結させる。「やぐらキャノピー」に吊るされたトレーが屋根高さから1スキャンあたり5oづつ連続して下降する。粉体と液体固化法がありセメント系や樹脂系等の何れの硬化材料でもよい。ケイ素系粉体を精密に位置決めされた特殊レーザーで焼成する方法も開発された。いずれもトレー内でヘッドがスキャンニングする毎にキャノピーに吊るされた建物が5oづつ下部に伸びてゆく。
材料の発泡密度を変え、造り放しの躯体が外断熱住宅としての性能を確保する。超高耐震で細密な造型が可能な究極のモノコック構造である。最大のメリットは無人で静かに建築できること。当然コストは最低となる。
私達の家は、屋根を全面クリア樹脂として星空の広がる透明空間を設けた。木をあしらったインテリアは、3Dオーダーメードのキットを用いて薄煙の中にレーザーを放つ3D取付位置表示装置を用いて寸分狂いの無いセルフビルドを行った。
 
「心の自由と経済的事由」
 なぜ家を建てる?「あこがれ住宅ナビ」を読みながら私達は自らに問いかけた。家族の為?何か目標を達成する喜び?相手に何かをしてあげて、喜ぶ顔をずっと眺めていたいから?人に助けられその暖かさに包まれるから? やはり、その基地となる空間が必要だから?
人を幸せにする家の基本は今も昔も変わらない。健康、快適で、安全であれば良い。料理に例えれば、これがスープの基本となるブイヨンで、あとは各個人が様々な具とスパイスをプラスして自分の味をつくるのだ。
私達が家づくりに出した結論は「安価であること」。しっかりとした基本にとびっきり好きなアイテムを付加して、無駄なく最高のゆとりと安心がほしい。経済的事由が心の自由を奪い取ってしまわぬよう、不確実な時代の私達の住まいは「笑いが止まらぬほど安価」であってほしい。今回、私達はその方法を「e雑誌」に教えてもらった。
 
 
 
最優秀賞(住宅生産団体連合会会長賞) 稲吉しお里(主婦)
 
作品名:身近な他人に開くドアを
 
私が住んでいる市では、容器包装リサイクル法によるプラスチックの回収が始まりました。先日開かれた市の職員による出前講座には、若い方から高齢の方まで地域住民から多くの参加がありました。何故かというと、これがとても判別しにくいのでとまどっている方が多い為なのです。
戦後は世の中の動きが激しく、昔なら高齢者が一番物知りだったのに、今ではややもすると取り残されてしまいそうです。家の中を見ても、小さいくせに多機能の電話や超多機能のパソコンなどが一般家庭にあたりまえに入ってきています。気力だけでは追いつかずに「これから先どうなるのだろう」と悩んでしまいかねません。新しい素材・技術・機能・システム等を理解し、判断し、と対応しつづけるのはとても大変な事。
10年来不況だと言いつづけている今、それにもかかわらず10年前には考えられなった生活をしています。30年後など想像もつきませんが、足し算すれば私は立派な高齢者。支えあう人がたくさんいる心豊かな暮らしをしているでしょうか。生活はどうなっているのでしょう。ロボットとの付き合い方も覚えなくてはいけなくなっているでしょう。もしかしたら足が不自由になっても車椅子など必要ない家があたりまえになっているかもしれません。スタートにたった現在では想像もつかない世紀となるでしょう。でも私は、そういうハードは専門家にお任せして、それより心豊かな生活を送るために住まい方の方が気になります。
 
家庭の中に介護が必要な人がいたとき、よく「介護はプロに、家族は安らぎを」と言われます。もっともだと思います。そのためにはプロの介護者が家に入ってくることになります。介護保険が始まって二年弱、「家の中に家族以外の人が入ることに抵抗がないわけではないが、保険料を払っている事によりサービスに対する権利意識は高まってきている」と新聞で読みました。そういうサービスに従事している方々に対しては、抵抗感は少ないと思います。でも先に述べたような資源の分別を教えてもらったり、重たいものを運んでもらったり、ちょっと具合の悪いところを直してもらったり、また逆に何かして差し上げたり、一緒に楽しんだり、したい時があります。そういう時に身近な他人が家に入ってくることに対しての抵抗はどうでしょうか。これが出来るかどうかで生活の質は違ってくることでしょう。こういうことが出来る関係をつくりやすい家では豊かに住まえます。
 
「遠くの親戚より近くの他人」と言う言葉がありますが、これからの遠い・近いは地図上での距離とは限りません。
a. 向う三軒両隣はもちろん近いです
b. 趣味や仕事やPTAなどの地域活動等で作り上げた、何らかの交通手段(30年後もまだ自動車?)を使って移動するちょっと広範囲な、目的を持った(価値観の近い)人同士の繋がりはかなり近いです
c. 更にはインターネットを使って距離には関係なくとても近い繋がりが増えるでしょう
これからの高齢者の生き方は一括りには出来ません。自分が納得できる生き方をする為に前述のとくにbとcの割合が大きくなるでしょう。
高齢者が、弱者としてではなく、プライバシーを守りつつ尊厳を持って「近くの他人=身近な他人」に開くドアをどう持ったらよいのか。身近な他人と、いろんな場面でいろんな程度で上手に付き合える家とはどのようなものでしょう。それこそ住む人の生き方次第で多様な形があるはずですけれど、排他的な相互監視とセットになった地域社会ではなく、無関心孤立社会でもなく、自選的多様な関係をスムーズに持てる社会であるためには、こういったゆとりを持った家が標準になるといいと思います。
マンションや団地でもそのような意識を持ってプランニングをしてもらいたいと思います。外から直接入れるドアを持つ部屋を持つことにより相手や状況が多様にふくらみます。そして、外から直接入れるドアを持つ部屋⇒居間⇒畳部屋⇒寝室、と相手や状況により「ドア」の位置は変わり、公共性とプライバシーのバランスをとることが出来ます。
人と人との付き合い方で人々の意識が底から変わるのには一世代分の時間がかかります。今「こうありたいな」と大勢の人が思う事柄は、30年後にはあたりまえになっているでしょう。30年後を期待します。
 
 
 
最優秀賞(建築研究所理事長賞) 平木敬太郎(書体デザイナー)
 
作品名:チープ化が生んだ変幻自在の住処
 
 家がステータスシンボルだったのは三〇年も前の話である。住宅メーカーが相次いで打ち出した坪二五万円住宅や、建築家たちが提唱したローコスト住宅が、価格破壊の第一歩だった。しかし、それらは従来住宅のコストダウンであり、その後の『チープ化』と呼ばれる現象とは大きな隔たりがあった。
 チープ化とは、一〇〇万円のシステムキッチンの代わりに低価格の調理台・ガステーブルを用いて一〇万円以下に、数十万円の収納家具をベニヤ合板の低価格家具に置き換えて数万円にと、多くの設備をチープなもので済ますという動きである。安っぽさは否めないが、デザイン性の高い商品が揃ってきたので、従来設備は一部の高級住宅以外では見かけなくなった。他にも、低価格照明機具の選択や、壁紙の省略などもチープ化といえるだろう。
 
 その一方で、二〇世紀末に提唱された『一〇〇年住宅』は二〇二〇年代には定着し、日本でも欧米のような住宅の長寿命化が実現した。一〇〇年間持ちこたえる鉄骨ラーメン構造の骨格と外壁は決して安価ではないが、住民は毎年その一〇〇分の一のコストを負担するのみである。メンテナンス費込みで坪一〇〇万円としても、五〇坪の住宅で年に五〇万円だ。定期借地権つきの土地が一般化したことも、ローコストに拍車をかけた。
 そうしたチープ化やローコスト化の陰で台頭してきたのが『キャリア』と総称される一連のロボットであろう。地下室+三階建+屋上という多層化で不可欠になった『ホームエレベータ』は、中二階への停止も可能なスキップフロア対応型。フロアの高さを変えたり、間仕切り壁を移動させたり、家の向きを変えたりする『構造キャリア』は、手軽な間取り変更を可能にした。床下・小屋裏収納等の狭い空間にびっしり荷物を詰め込んでも、自動で目的の品物を出すことが出来る『収納キャリア』は、収納革命といわれた。これらは、家財道具の運搬にも利用できる。「住まいの主役は人ではなく物なのか」と揶揄されることもあるが、物がなくて生活はないのである。
 
 構造キャリアによって『可変間取り』が可能になって以降、二〇世紀には見られなかった風変わりな間取りが登場している。ベッド一個が入るだけの最小寝室、庭へ移動できるバスタブ、移動階段、天井高の高い二階建てから天井高の低い三階建てへの転換、個室にもなるバルコニー等である。従来、間取り変更が困難とされた都心の狭小住宅でこそ、こうしたギミックが活用されている
ようだ。住宅のスタンダードが決まっているアメリカやヨーロッパの町並みに比べると、こうした日本の現代住宅は相変わらず統一感に欠けた景観を生み出すが、これこそが戦後日本のスタンダードなのである。
 外観は異質であっても、周囲のことを考えていないわけではない。住宅の高層化で採光が難しくなってきたため、住宅街では『計画的借景』が注目されている。一つの庭を三、四軒で共有したり、公園近くの家は遠くの家から公園が見えるよう配慮したりという具合だ。密集地では、窓が模様ガラスだったり目隠しが必要だったりするものだが、予め隣家と協議することで視線の問題も解消される。それは、『屋上緑化』ともリンクしている。住宅の屋上間を橋で結ぶ回廊は地域の共有空間であり、密集地での災害対策としても役立っている。
 
 建築家や住宅メーカー主導型から、住人主導の家づくりへと変わったわけだが、それゆえに使い勝手が悪かったり、安全性が損なわれたりするケースも増加している。だが、それらは建てた後からいくらでも、コストをかけずに改善できるのだ。多少まずい点があっても、それは各人の趣向である。そして、次に住む人が自分たちの好みに合わせて間取りを組み換える。結局のところ住宅の差異は、大きさと立地だけとなった。流行を吸収して常に変化し続ける住宅こそ、古びない長寿命住宅なのである。
 
 
 
優秀賞 米澤昭(財団法人日本住団・木材技術センター)
 
作品名:理想の我が家の建築記
 
(1)我が家について
我が家は夫婦と子供一人の核家族です。私は40歳、家内は37歳、息子は6歳です。子供が小学校に入学する年になったので、これまでのマンションでは手狭で子供部屋が取れないため、新居を探すこととしました。
(2)新築住宅か中古住宅か
日本サステナブル法(日サ法)の制定に伴い、耐久性、省エネに考慮した住宅性能に優れる住宅は新築、中古を問わず価値が高まりましたが、設備、仕上げや間取りばかりに目を向けた住宅は罰則税の対象となることから著しく価値を下げました。
これは、日サ法で@躯体に使用する柱、梁等の樹齢に応じて建物の償却年数が登記時に指定され、指定年数以下で除却したり、産廃物扱いするとペナルティとして罰則税が課せられますが、指定年数以上の使用や廃材をリサイクルにまわせば減税されること、A国家マクロ目標値から一人当たりのエネルギー使用目標値を設け、申告時に電気、ガス、灯油の領収書を添付することで、目標値を下回った場合は減税、上回った場合は罰則税が課せられること、B住宅の維持管理点検書が各戸に備えられ、計画点検、小修理を実施すれば減税するが、しない場合は罰則税を課すこと、等が規定されたからです。
我が家の場合、ネットの中古住宅情報で取得後の維持コストを計算し、年収、住む期間から減税が可能な新築と判定されました。
(3)新居の設計について
以前は、デザインや仕上材、設備を重視していたため設計が複雑となり、設計者が必要でした。しかし、日サ法の制定により高性能な躯体作りの気運が盛り上がったこと、我国の市場縮小に伴い中国へ生産拠点を移したハウスメーカー、設備メーカーが構造兼用の大型設備ユニットを低廉な価格で輸出し始めたことにより、住宅の設計は居住者がすることが当たり前になってきました。インターネット設計と呼ばれ、ブラウザで材木や面材を指定し、プランを作図すると、計算センターから即座に結果が返されます。
我が家の場合、東西を大型設備ユニットで固め、中間部分は在来工法で1、2階共ワンルームとしました。東のユニットには1階に台所、2階に浴室とトイレ、西ユニットは階段室で脇にトイレ、2階に納戸のものを選びました。各天井懐にはボイラー、換気ユニットが内蔵され24時間管理できる上、陸屋根に降った雨は基礎の雨水タンクに貯めトイレで再利用できる仕様となっています。
設計が終わり、インターネット上でサインすれば支払もでき、押印された図面が配達され、確認検査機関に提出すれば施工に移ることもできます。図面と共に各種保険やローンの案内CDも同封されています。耐久性、省エネ性能、構造の強さ等住宅性能表示制度の等級に基づき利率が変わります。オンラインでサインでき、我が家の場合、勤め先、年収、控除額を入力し、減税になることを確認し申し込みしました。
(4)新居の施工について
日サ法の施行後の住宅新築は、解体時の罰則税分を一旦ディポジットすることが必要です。この振込が確認されると着工許可板が渡され、完成時に許可板と引き替えに検査証がもらえます。検査証には建物の耐用年限、エネルギー使用量の目標値等が記載され、登記されることで日サ法の施行を確実なものにしています。
最近の工事は、職人の派遣を行うネット工務店が一般的で、工事で必要となる書類管理もしてくれます。ネット工務店は、新築住宅着工数が急速に落ちた頃から普及している業態で性能表示制度、完成保証、瑕疵保証等の一連の保証もしてくれます。職人にとっても仕事の機会が増えると共に材料の在庫リスクをなくせるため盛んになってきました。ネット工務店にインターネット設計の図面ファイルをメールすると、数時間後には見積書、工程表、現場管理一覧表等が返信されます。ネット工務店は幾つかあるのでオプションの豊富さと付属サービスの良さで選びました。我が家の場合、棟梁の実績リストからAクラスを、工事写真は毎日送付を選びました。Aクラスの棟梁は人気があるので着工は半年先となりましたが、安心して任せることができる棟梁を選べ、ホッとしました。
(5)居住してみて
手入れを行い、写真を維持管理点検書に添付し確認検査機関か評価機関にメールすると記録されます。アドバイスの返信や定期点検を知らせてくれたりもします。この維持管理点検書は、税申告時に電気等の領収書と共に提出すると減税されたり次年度からの保険料も低減さます。手入れが劣化予防となり、保険会社にとっても支払額が圧縮できるからです。
居住者は、住宅の住まい手のプロです。自分達で設計したり、信頼できる棟梁に頼んだり、手入れも自分ですることで、住まいに対する愛着も一層増しました。今回の住宅新築を機に接した日サ法は、住まいと環境保護のため、もっと以前から整備されるべきであったと感じました。
 
 
 
優秀賞 深川敦司(株式会社ランド環境プランニング)
 
作品名:浮遊する家
 
 「ヤッター」私の理想の家に住みはじめる朝、私はその家の前で今から起こりえるこの家の変化に胸を躍らせていた。
 辺りは木立に囲まれ、木々の中に透明な箱は浮いている。そこが我が家だ。もう高い建物に囲まれた都心、密集した住宅が続く郊外、覆いつくされた地面、汚染された空気、私はそんな都会と言われている場所から離れ、都会のじゅばくから解放された。もう距離という便利さだけに縛られる必要はないのだ。
 私が欲しかったものは木々に囲まれ、快適な暮らしができる平面だけであった。地面を覆わなく、平面を手に入れることが私の理想の一つである。そこで、平面をそこに立っている木々に支えてもらう方法をとった。木々は透明な箱の中を突き抜けている。私の家に基礎はない。木々の根っこで支えているのだ。私の家は木々にしぎみつき、木登りをしているみたいだ。
 平面は皮膚のような透明の板で囲まれ、空間は覆われている。その板は熱の調節をして快適な温度を保つことができる。またカメレオンのような皮膚でもあり、スクリーンのように、TVはもちろんパソコンの画面になり、自分の操作で思った通りの壁へと七変化するその板の戸が平面を動き、光の調節やプライベート空間も気ままにつくることができる。それでガラスの箱にも擬似的な囲われた箱にも、映像をつかって宇宙空間にいるようにもできる。私は自由な立面がほしかったのである。
 我が家は木と同化するように、雨を貯え、利用して、処理をして地面に流される。電気はところどころに張られているソーラーパネルの太陽発電でまかなっていて、家は独立している。独立というより自然の通過点とした人の住まいとしている感覚なのだ。自ら取得して利用し、自然に戻すことを、家単位ですることで、様々な家の形が生まれてくる。私の理想の家は、土地を覆わない平面であり、そこに自由を求めている。自由な立面に自由な場所、そしてそんな暮らしは自然を汚さない。そしてこの家をつくるお金が安ければさらに自由になるだろう。
 真に良い家は、良い生活のできる家である。それは、自由な選択があり、その自由から自ら決めていることで家も人も良くなっていくのだ。
 
 
 
優秀賞 稲井信輝大成建設株式会社)
 
作品名:住文化のソフィスティケィション
 
 人がものの理想とする姿を語るとき、それはいつもその時代の価値観を反映するものです。今、私達は新しい住宅を建築することが非常に少なくなりました。それは、現在の建設経済活動がかつての時代に較べて縮小してしまったからではありません。理想の住まいに対する価値観が昔とはすっかり変ってしまったのです。この時代に新しい住まいを今様に造ることは、大変野暮な行為と見なされ、肩身が狭い行為になっています。古い住宅を大切に扱う姿勢、それを上手に住みこなしてその行為の中から美的意味を引き出したり、その場を、便利で快適に住めるようにする改修にエネルギィーを注ぐことが、現代の家造りの主流となりました。私達は、出来上がった住宅の空間性だけを住まいの理想論の対象とすることはしなくなりました。勿論、この空間性が一番大切な要素に違いはありませんが、住まい造りのプロセスの中に身を置くことで得られる私達の家族を含めた自己実現の喜び、社会的評価無しには理想を語る資格がないと見なされているのです。
 私たちが享受しているこの環境は、現に降り注いでいる太陽の恵みと、太古から蓄えた資源とエネルギィーで成り立っていますが、それ以外に、これまでに先人達が注いできたあらゆる意味でのエネルギィーも資源の一つと考えて、これを最大限活用して環境を形成しようという行為そのものも評価の対象になっています。20世紀の後半に全盛を誇ったかに見えた資本の論理の異常性に気がついた私たちには、今やっと世界規模での連帯の絆が出来たところです。経済活動の評価軸の大転換と言う未曾有の試練も、やっと落ち着きを取り戻しました。この活動のリーダー役を自覚した私たち日本人が今住まいの理想を論じるとき、この“温故知新”の精神を心の拠所として活動していることに気付きます。ここでは、住まいを造ろうとしている家族、建築家、建築を志す学生、住まいの造り手たち、それに各地に組織された地域環境に関する研究会の人たちの濃密な提案が飛び交います。先人の蓄積したエネルギィーを無駄にはすまいと言う強い意志と、より快適で現代的に生きようとする新しいライフスタイルが統合された“粋な住まい”が私たちの理想の住まいなのです。
 さて、このような視点から私たちが受け継いでいる住資産を見直してみると、必ずしも全ての粒が揃っているわけではありません。家が集合してできる街並、住戸の規模、デザイン、工法など、千差万別の姿は過去に色々と口汚く評価されたことを知っています。私たちはこれを都市で産出する資源と考えていますから、この程度の多様な姿については、金属資源の鉱床と較べれば大変歩留まりの良い貴重な資源だと考えています。むしろこの多様性こそが多様な住文化を
育む素材となり得る資源だとまで思います。私たちは、これらの資源としての既存住宅一軒一軒について再評価し、改修の手を加えたり、その用途を変更したり、周辺を整備したりして新しい環境に造りかえる活動を通じて都市の再生を図っていますが、中にはこの類の資源として耐久性の観点から不適のものが、比較的建築履歴の浅いものの中から出てくるのが残念です。
 私たちの時代は人口もピークを過ぎ、所帯数の減少に伴って余剰住宅も増えています。先人の遺産を受け継いだ私たちは、これに有り余るほどの知恵を濃密に注ぎ込んで、豊かに住み続ける喜びを知りました。一つ一つが自己を主張していた一見バラバラに見える戸建住宅の街並も、街路と植樹を整備して外観を整えると驚くほどの変貌を見せ、20世紀末の欧米的街並の価値観だけから評価するといった桎梏からも自信を持って解き放たれました。識者の顔をしかめさせたミニ開発住宅も、これを一つの群と考えて再編成することで、見事に若者達の理想の住まいに姿を変えました。この一連の住まいに対するエネルギィーの投入は、時代を画する一つの国民的文化運動であると考えられ、後の世に“住文化ルネッサンスの時代”と呼ばれ、住生活のソフィスティケーションが最も進んだ時代と刻印されることでしょう。
 
 
 
優秀賞 寺田佳弘(株式会社日本システム設計
 
作品名:「Supporting+Interesting!」住宅への誘い
 
私の住まいを語る前に、少し現在の新築戸建住宅事情を紹介したい。丁度目の前に建築中の住宅がある。某ハウスメーカーの住宅である。30年前に比べて新築の住宅数は、極端に減少しているが、どれも地球環境の保全という視点にたった、質の高いものが要求されている。新築といってもすべてが新しい部材で構成されているわけではない。特にハウスメーカーの場合、内外装材から構造材、設備配管など、住宅全体をパーツ化し耐用年数に応じて取り替えていく寿命設計が浸透し、自社物件内での部品の共通化、設計から流通、施工さらにアフターメンテナンスまでのシステム化が高度に行われているため、部材のリユースやリサイクルには積極的である。従来のように、解体した部材をほとんど廃棄物にすることは社会環境が許さない。部材の均質化・規格化を計り、ライフスタイルに応じて比較的短スパンで更新しながら利便性を向上していくのが、今のハウスメーカーの主流である。
現在の戸建住宅の潮流は、大きく二通りに分類できる。一つは先に挙げた超性能重視の規格化住宅、そしてもう一つが、地場の工務店が中心になりグローバルな流通網に頼らず、なるべく地場の素材(主に自然素材)を住宅建材に積極的に用いた住まい手参加型の住宅である。このスタイルは、躯体や最低限の設備工事などの基本的な性能を、工務店が建設し、後は住みながら職人さんと一緒に自分の好みに合わせて完成させていく、地域循環型の新しいSI住宅として特に男性に人気がある。住まいに男性が積極的に関与していることなんて想像もつかないでしょう。この活動を積極的に支えているのが、さまざまな工事で活躍する職人さん達である。
今日紹介する私の住まいも、この住まい手参加型の住宅である。家の中を案内する前に少しここまでの軌跡をお話したい。きっかけは、10年ぐらい前に行政が主催する建設プログラムに参加したことから始まる。このプログラムは、地場の森林資源を利用して衰退する森林事業を活性化させるとともに、個性的なまちづくりにまで発展させていこうとする意欲的な試みであった。(別紙参照)
 私も妻も元来自分で作っていくことが好きなため、自宅を新築するにあたり、地場の木材を内外装に使っていこうと職人さんと一緒に山に入り、選定の仕方から伐採、のこの使い方、カンナのかけ方など、さまざまな家づくりの講座に参加して少しずつ技術や知識を取得してきた。この建設プログラムの大きなメリットは、伐採・植林・管理という森林のサイクルと、伐採した材料を使った建設のサイクルを同時に体験できることである。想像以上に大変であったが、職人さん達がさまざま環境をサポートしてくれたことで参加者間の交流が生まれたり、自分の住まいを材料から構成まで存分に知ることができたのは、今後のメンテナンスを含めて何よりも自分の住まいを育んでいく上で貴重な体験であった。
 このあたりで少し家の中を案内したい。木材がむき出しの大きな空間は、現在塗壁を作業中であるため、多少散らかってはいるが、私たち家族の唯一のたまり場である。我が家の基本方針は一人ひとりが自分で場所を作ることである。この塗壁もコンクリート廃材と自宅の庭の土を混ぜ合わせた新しい材料の試作品として、左官屋さんと一緒に妻が現在製作中のものである。子供達は、紙でつくった、傘のような携帯用のコンパクトテントで思い思いの場所を作っている。そして私のお気に入りの場所は、自宅に生えている竹で作ったピロティ部分にある3帖程の小さな書斎である。何せ一本一本不揃いな材料であるため、作るのに非常に時間がかかったわりに、春秋は心地がよいが、夏暑く、冬のすきま風には応えるなど、住環境としては決して良いとは言えない。しかしこれは、竹の講座で竹の魅力に取付かれぜひとも実現したい空間であった。竹は10年で建築材料にまで成長する。そして雨の処理さえうまくすれば10年は十分にもつ。また使えなくなった材料は竹炭として利用可能である。材料としてロスがなく、自宅内で循環でき、春にはおいしい筍料理が味わえる。これほど生活に密着した合理的な材料はないではないだろうか。さらに不揃いであることが気に入っている。住まいは均質な性能を満たすだけではない。近代的な材料は合理性や効率性などの理由により、不均一を極端に排除してきた。確かに均質化は、現在においては共有できる材料ストックとして必要なことである。これは今のハウスメーカー的建築生産が証明している。しかし、住まいは性能だけでは語れない、私が体験した建設プログラムは、作るというプロセスそのものが「住まうことである」と言うことを教えてくれた。私の理想の空間は、夏暑く、冬寒いこの竹の書斎である。少々手はかかるが、メンテナンスをしながら長く付合っていきたいと思っている。



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