都市の緑/人の病気を治してくれる?
 アメリカの作家のO・ヘンリーが書いた短編小説「最後の一葉」は教科書にも載っているので、誰もが知っていることでしょう。
 実は、この小説のことを思い起こさせるような学術的な成果があるのです。
 それは、アメリカのペンシルバニア病院で実際に行われた実験なのですが、手術後の患者の経過を、レンガしか見えない病室の患者と緑の見える病室との患者とで比較したものです。
その結果、緑の見える病室の患者の方が、明らかに早く病気が治ったのです。
 これは通称レンガ理論と呼ばれますが、この研究のように、植物に癒しの効果があることは今まで指摘されてきたことであり、疲労回復などに役立つ植物の効果が生理学的な実験などで確認されています。
 建築研究所では、こうした緑の持つ効用について、都市整備の観点から定量的に把握する試みに取り組んでいます。
 その結果、主にアメニティ向上効果において大きな効果が確認されています。
 植物は建物や街の素材としては特殊なもので、生きていることが、同じく生物の一員であるヒトに癒しを与えるのでしょう。

 世界を見渡すと、こうした緑の持つ機能に着目した街作りが、あちこちで進められています。
その最たる例がシンガポールです。
 この街を訪れると分かるのですが、あれだけの大都市にもかかわらず実に緑が多いことに驚かされます。
 シンガポールは金融や先端技術産業によって成り立つ都市国家なので、国際的に優秀な人材を確保する必要があります。
 緑は都市の魅力を増加させ、人材の定着や知的作業の効率を高めます。
 つまり、シンガポールでは国家戦略の一つとして都市緑化が進められているのです。
 かつては庭園都市(ガーデンシティ)という合い言葉のもとに街作りが進められてきたシンガポールですが、他の国の都市もそれに追随したことによって、シンガポールが国際的に優位に立てなくなってきたことから、今では、これをさらに進めて、庭園の中の都市(シティ・イン・ザ・ガーデン)というコンセプトのもとに緑化が進められているほどです。

(建築研究所 住宅・都市研究グループ 上席研究員 加藤真司)

【写真】まるで森の中にいるかのようなシンガポールの目抜き通り(シンガポール国立公園局提供)

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