火の粉/飛ぶ火による火災を防ぐ

 夏目漱石の小説「吾輩は猫である」に次のような一節があります。「この子供の言葉ちがいをやる事は夥(おびただ)しいもので、折々人を馬鹿にしたような間違を云ってる。火事で茸(きのこ)が飛んで来たり、御茶(おちゃ)の味噌(みそ)の女学校へ行ったり」 言うまでもなく、木造の家の火事で飛んでくるのは火の粉であり、火の粉は当時でも厄介者とみなされていたことがうかがえます。ちなみに、女学校は今のお茶の水女子大学です。
 木造の住宅は現代でも数多く建てられていますが、外壁にモルタルを塗るなどして火災に強くなる工夫を施します。それでも、大地震直後に大火になると、もらい火をしてしまうこともあります。通常の火災でも消防の駆け付けが遅れると同様であり、家屋の炎上に伴い、たくさんの火の粉が発生します。その大きさは数ミリから数センチ程度のものが多いのですが、強風でちぎられるようにして、数十センチのものが放たれることもあります。これらが風に乗って火の帯がかかるかのように上空を飛んでいき、ナイアガラの滝のように落下してきます。そして、新たな火災を引き起こします。
 1923年の関東大震災では、約150カ所から出火した火災が、秒速10m以上の強風にあおられて甚大な人的、物的被害を招きました。約60カ所は火の粉による飛び火火災ですので、火の粉によって被害は1.5〜2倍程度に助長されたと言えます。1995年の兵庫県南部地震に伴う火災でも、強風が吹いていたら、飛火火災により被害はもっと大きくなっていたと思われます。
 木造住宅が密集していて、大地震の発生も懸念されるわが国では、火災被害を必要以上に大きくしないためにも飛び火の防止対策の提案が急がれます。火の粉の発生源である木造住宅や可燃性の家具などを無くすことは不可能な話です。次善の対策として、飛び火による受害防止を目指す必要があります。
 建築研究所には、火災と風の関係を調べることができる世界的にもユニークな実験施設があります。この施設を使って、飛散する火の粉に住宅の一部をさらす実験を繰り返しています。実験結果を基に、降りかかる火の粉を追い払わなくても大丈夫な住宅を目指しています。
(建築研究所 防火研究グループ 林吉彦)

【写真】実験成果の一例として、想定外の大地震で屋根瓦がずれたりすると、火の粉が野地板に落下し火災を引き起こす可能性があることが実証されました。

実験の様子


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