平成18年9月21日
 

突風と建物被害について(豆知識)

 
建築研究所 構造研究グループ
奥田泰雄・喜々津仁密
029-864-6618(奥田)
y_okuda@kenken.go.jp
 
 平成18年9月17日午後2時ころ台風13号の接近に伴い、宮崎県延岡市では特急列車が横転するなどの突風被害が発生した1)。気象庁宮崎地方気象台では、18日に現地調査を実施しこの突風を竜巻によるものと判断した2,3)。一方、宮崎県延岡市の北約50kmの大分県臼杵市では、平成18年9月17日午後3時半ころから吹き荒れた突風により、半径約150mの狭い範囲で住宅等が全半壊4)した。大分地方気象台では、竜巻の痕跡が見当たらないことから、ダウンバーストが発生したとみている4)
 突風とは一時的に吹く継続時間の短い強風のことで、竜巻、ダウンバースト、局地的な風、乱気流といったものがある。竜巻は、気象科学事典5)によると「積雲や積乱雲などの対流性の雲によってつくられる鉛直軸をもつ激しい渦巻きで、しばしば漏斗状または柱状の雲を伴う。米国では陸上竜巻をトルネード、水上竜巻をウォータースパウト、上空竜巻をファネル・アロフトというが、日本では竜巻というとこれらすべてを含んだものをさす」とある。一方、ダウンバーストは積雲や積乱雲から生じる、冷やされて重くなった強い下降気流のことで、地面に到達後激しく発散し、突風となって周囲に吹き出す現象5)をさす。竜巻による被害の特徴は、個々の被害は甚大であるのに対し被害の範囲はきわめて局所的であり線状に分布する。竜巻やダウンバーストといった突風の強さを表わす指標として藤田スケールがあり被害状況から推定する。日本で最近発生した竜巻の被害概要を表1に示す。今回の竜巻では藤田スケールはF22,3)であるが死者が3名に上った。
 建築研究所では、建築物の強風による被害状況を把握するために、現地被害調査を実施している。その際には、台風による建築物の被害だけでなく、竜巻やダウンバーストといった突風被害についても現地調査を実施している。また、現地調査では、被害状況を知る資料として風速記録を近くの気象官署や消防署から入手する場合があるが、風速記録が入手できない場合には、電柱や交通標識の折損、墓石の転倒等といった単純な構造物の被害状況から風速推定を行う場合もある。

 注)文中の1)〜5)は、後述の参考文献
 
表1 最近の主な竜巻の被害

1990.12 茂原竜巻 千葉県茂原市・富津市ほか参考文献6,7) 建研情報1)
長さ5km:幅最大1km
死者0名、重傷者7名、軽傷者72名
全壊85棟、半壊176棟、一部損壊1843棟(千葉県)
F3(70-92m/s)
 
1999.9 豊橋竜巻 愛知県豊橋市・豊川市ほか参考文献8,9)
長さ19km:幅最大550m
死者1名、重傷者14名、軽傷者400名
全壊40棟、半壊309棟、一部損壊1980棟(豊橋市)
F2(50-69m/s)から
F3(70-92m/s)程度
 
2002.7 境町竜巻 群馬県境町、埼玉県深谷市建研情報2)
長さ5km:幅最大100m
死者0名、重傷者1名、軽傷者11名
全壊7棟、半壊31棟(境町・深谷市)
F2(50-69m/s)
 
2004.6 佐賀竜巻 佐賀県佐賀市、鳥栖市ほか建研情報3)
長さ8km:幅最大300m
死者0名、重傷者0名、軽傷者15名
全壊13棟、半壊34棟、一部損壊322棟(佐賀市・鳥栖市ほか)
F2(50-69m/s)
 
2006.9 延岡竜巻 宮崎県延岡市
長さ7.5km:幅最大250m
死者3名、負傷者116名
全壊39棟、半壊128棟、一部損壊598棟
F2(50-69m/s)参考文献10)

 
(参考)
藤田スケール(F0〜F12)(気象科学辞典5)より)
 竜巻、トルネード、ダウンバースト等の風速を建築物や構造物の被害状況から簡便に推定するために、シカゴ大学の藤田哲也により1971年に考案された。各スケールの風速の下限値Vは
 
V=6.3(F+2)1.5 [m/s]
 
で、F1はビュフォートの風力階級の第12段階、F12は音速に等しくなるように定めた。
 
階級 風速 被害状況
F0 17〜32m/s
(約15秒間の平均風速)
 テレビアンテナなどの弱い構造物が倒れる。小枝が折れ、根の浅い木が傾くことがある。非住家が壊れるかもしれない。
F1 33〜49m/s
(約10秒間の平均風速)
 屋根瓦が飛び、ガラス窓が割れる。ビニールハウスの被害甚大。根の弱い木は倒れ、強い木の幹が折れたりする。走っている自動車が横風を受けると、道から吹き落とされる。
F2 50〜69m/s
(約7秒間の平均風速)
 住家の屋根がはぎとられ、弱い非住家は倒壊する。大木が倒れたり、ねじ切られる。自動車が道から吹き飛ばされ、汽車が脱線することもある。
F3 70〜92m/s
(約5秒間の平均風速)
 壁が押し倒され住家が倒壊する。非住家はバラバラになって飛散し、鉄骨づくりでもつぶれる。汽車は転覆し、自動車が持ち上げられて飛ばされる。森林の大木でも、大半折れるか倒れるかし、また引抜かれることもある。
F4 93〜116 m/s
(約4秒間の平均風速)
[荒廃的被害]
 住屋バラバラになって辺りに飛散し、弱い非住家は跡形なく吹き飛ばされてしまう。鉄骨づくりでもペシャンコ。列車が吹き飛ばされ、自動車は何十mも空中飛行する。1t以上もある物体が降ってきて、危険この上もない。
F5 117〜142 m/s
(約3秒間の平均風速)
[信じられない被害]
 住家は跡形もなく吹き飛ばされるし、立木の皮がはぎとられてしまったりする。自動車、列車などがもち上げられて飛行し、とんでもないところまで飛ばされる。数tもある物体がどこからともなく降ってくる。
 
関連する建築研究所からの情報
1. 建設省建築研究所:1990年の千葉県茂原市の竜巻による建築物の被害調査報告、建築研究資料 No.78, 1992.3
http://www.kenken.go.jp/japanese/contents/publications/data/78.htm
2. 喜々津・奥田・伊藤:群馬県境町で発生した突風による建築物等の被害について 平成14年7月26日
http://www.kenken.go.jp/japanese/research/str/list/topics/tatsumaki/index.pdf
3. 石原・奥田・喜々津・村上:佐賀市・鳥栖市竜巻 現地被害調査報告 平成16年7月13日
http://www.kenken.go.jp/japanese/research/str/list/topics/saga-tatsumaki/index.pdf
 
参考文献
1. asahi.com(朝日新聞)2006年09月17日15時31分
http://www.asahi.com/special/060916/TKY200609170144.html
2. 宮崎地方気象台:報道発表資料 平成18年9月19日
http://www.fukuoka-jma.go.jp/fukuoka/gyomu/osirase/houdouhappyousiryou_miyazaki060919.pdf
3. 宮崎地方気象台:災害時気象資料 平成18年9月19日
http://www.fukuoka-jma.go.jp/emr1/T0613_miyazaki.pdf
4. Yomiuri Online(読売新聞 九州発 週間ニュース)
http://kyushu.yomiuri.co.jp/news/ne_06091902.htm
5. 日本気象学会編:藤田スケール、pp.466、気象科学事典(東京書籍)
6. 桂 順治編:1990年12月11日千葉県に発生した竜巻による暴風災害の調査研究、文部省科学研究費突発災害調査研究成果、1991.3
7. 気象庁:平成2(1990)年12月11日千葉県内で発生した竜巻等調査報告、気象庁技術報告、1993.3
8. 桂 順治編:台風9918号に伴う高潮と竜巻の発生・発達と被害発生メカニズムに関する調査研究、文部省平成11年度科学研究費補助金(特別研究推進費)研究研究成果、2000.6
9. 豊橋市:竜巻の記録 1999.9.24 豊橋市を襲った黒い渦、2000.3
10. 宮崎日日新聞:http://www.the-miyanichi.co.jp/news/index.php3?PT=1