■建築研究報告

大阪市の不良住宅地区(長柄地区の現況調査)  附  不良住宅地区判定要因の分析

新海悟郎, 三輪恒

建築研究報告  No.10,  昭和27年3月


建設省建築研究所第1研究部長  新  海  悟  郎

<概要>

  戦後の住宅問題は一に住宅の量的不足の解決に重点がおかれてきたが,それと不可分の関係にある住宅の質の問題もこれと並んで解決されなければならない緊急問題であることはいうまでもない.
  とりわけ劣悪住居の集団化している不良住宅地区の改良は他に優先して解決を図らねばならない問題である.
  昭和13年以来中断されていた不良住宅地区改良事業は,社会的要請により,最近ようやく脚光をうけだし,27年予算にその事業予算が組み入れられようとしており,関係諸都市においても,この改良事業遂行のための準備が着手され始めている.その気運に並行して吾々もまた昨年秋から不良住宅地区の実態を調査しはじめ,すでに神戸市番町地区の調査を終え,今回第2回調査として大阪市長柄地区の調査を試みた.本文はその報告書である.
  我国の不良住宅地区は封建時代に行政的圧力によって特殊部落として形成されたものと,初期資本主義の時代において時代の奔流に押し流された者が都市の所謂谷間に終結して形成したものとがあるが,大阪市の不良住宅地区は主として後者に属するものである.
  かつて大阪市における最大の不良住宅地区であった下寺町,日東町地区が地区改良された後における代表的不良住宅地区は,大阪市社会部が昭和12年に行った密住地区調査によれば,長柄,西九条,西浜栄町,関谷町,釜ヶ崎,三開の6地区であったが,その大半は昭和20年の戦災で焼失し,長柄地区のみが,たとえその半分を焼失したとはいえ,従前の面影をとどめている.したがって吾々は大阪市における従前からの不良住宅地区として長柄地区を調査の対象に選んだのである.
  調査の目的は長柄地区が,上述のような生い立ちから,如何なる生態を現在有しているか,その実態を把んで不良住宅地区改良事業の問題点を指摘することにあるが,さらに不良住宅地区の不良度判定の要因および地域判定の基準に必要な資料をあわせて得るために行ったものである.
  そのため本調査は長柄地区内全住戸の現状を戸別訪問調査により明かにし,約50戸宛の集団に地区を小区劃し,その区劃毎の不良度を比較検討したものである.
  調査時期は昭和26年6月28日より7月12日に至る半ヶ月で,調査員は建築研究所新海悟郎,三輪恒,松岡春樹の3研究員が当り,大阪大学工学部建築学科学生延100人の協力を得て行ったものであり,調査票の集計は建築研究所において手集計でこれをおこなった.
  報告書の作成にあたっては新海が執筆を,三輪が図面作成を担当した.
  なお本調査の実施は大阪市建築局と共同でおこなったもので,大阪市建築局住宅課,大淀区役所,大淀保健所,大淀警察署,北市民館の関係職員並に地元民生委員,とくに北市民館長鵜飼貫三郎氏より絶大なる協力を得て始めて完成したものであって,ここに記して関係各位の好意に深く感謝の意を表するものである.

    昭和26年12月25日

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